新型コロナウイルス感染症パンデミック下の市民による一次救命処置
(Basic Life Support by Lay Rescuers during the COVID-19 Pandemic)

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【自動体外式除細動器(AED)を使った除細動】

総務省消防庁の最新の報告によると、2019年中に救急搬送された人のうち、心停止は12万6,271人で、その中で心臓に原因がある心原性心停止は約7万8,884人でした。心原性心停止は7分に1人発生していることになります。心原性心停止の多くは心室細動という重篤な不整脈が原因で、救命には一刻も早い心肺蘇生と電気ショック(除細動)が必要です。しかし、119番通報してから救急車が到着するまでに平均8.7分かかり、心室細動が起こってから除細動までの時間が1分遅れるごとに救命率は約10%低下します。そのため、その場に遭遇した一般市民による一次救命処置(Basic Life Support, BLS)が救命の鍵を握ります。一般市民に目撃され救急搬送された心停止者2万5,560人の1か月後の生存率は、一般市民による応急手当が行われなかった場合は9.3%であるのに対して、救急車到着までに一般市民による自動体外式除細動器(AED)を使ったBLSが適切に行われた場合は53.6%と、救命率は格段に向上します。しかしながら、実際にAEDが使われた心停止者は1,311人(5.1%)のみであり、一般市民によるBLSの普及に課題が残っています。

【2020年蘇生ガイドライン】

日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドラインは5年ごとに作成され、2020年内に新ガイドラインの完成を予定していました。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行に伴い完成が遅れ、2021年3月にJRC蘇生ガイドライン2020のオンライン版が公開されました。

【2020年蘇生ガイドラインの変更点】

2020年蘇生ガイドラインの基本には大きな変更はありません。傷病者の反応がない場合には、応援を呼び、119番通報、AED依頼を行い、通信指令員の指示に従います。呼吸がないか判断に迷う場合には、胸骨圧迫を約5㎝の深さで、1分間あたり100~120回絶え間なく行います。人工呼吸の技術と意思がある場合には、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせを実施します。AEDを装着し、心電図解析で電気ショックが必要と判断された場合には、電気ショックを行います。電気ショック後は、ただちに胸骨圧迫から再開し、救急隊に引き継ぐまで継続します。新ガイドラインでは、「気道異物に対して、まず背部叩打を優先して実施し有効でなければ腹部突き上げを行う」、さらに「新たに妊産婦の蘇生の章が加えられた」ことが主な変更点です。妊産婦のBLSでは、妊娠子宮による腹部大血管の圧迫を解除する目的で、正常な呼吸がある場合には左側を下にした横向き体位を考慮することが追加記載されました。

【2020年蘇生ガイドラインのCOVID-19対策】

傷病者がCOVID-19に感染している場合を考慮して、新ガイドラインではBLSについて以下の留意点をあげています。1)普段からマスクを装着し日常から感染防護に努める、2)反応の確認と通報時は、肩を叩きながら大声で呼びかけ、電話のハンズフリーモードを活用する、3)呼吸の確認時はあまり近づきすぎない、4)感染防止のため、マスクやハンカチ、タオル、衣服などで倒れている人の鼻と口を覆う、5)胸骨圧迫を強く、速く、絶え間なく行い、成人の傷病者には人工呼吸を行わない。傷病者が小児の場合には、人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思のある救助者は人工呼吸も行う、6)救急隊へ引き継ぎ後、速やかに石鹸と流水で手と顔を十分に洗い、鼻と口にかぶせたハンカチなどは、直接触れないようにして廃棄する。

COVID-19パンデミック下では、救助者自身の安全確保を講じつつ、適切な救命処置を行うことが必要です。



(慶應義塾大学保健管理センター 内田敬子)