生活習慣改善のポイント:脂質異常症
(Lifestyle improvement for prevention and treatment of dyslipidemia)

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 健康診断の結果で,中性脂肪やLDLコレステロールの値が高いと指摘される方は毎年たくさんいらっしゃいます。しかし,食事や運動の保健指導をする中で「何をやってもコレステロール値が下がらないのはなぜか」「服薬するしかないのか」という相談も多く聞かれます。

 LDLコレステロールが増えてしまう食事以外の要因としては,肝臓でのコレステロール合成が増える(体内のコレステロール全体の約8割を占める),ホルモンのバランスが変わる,LDLなどのリポ蛋白を取り込む細胞の受容体が減るなどが考えられます。これらの要因がある場合には,まずは病気の治療が大切です。また,遺伝による家族性高コレステロール血症の場合もありますので,食事や運動でコントロールがつかない場合には医師に相談してみましょう。

 しかし,原疾患がある方や遺伝的な要因がある方も含め,大多数の方は,食習慣や運動不足,体重増加が脂質異常症の誘因となっています。脂質異常症を改善するための生活習慣のポイントは,「コレステロールの摂取を控える」ということだけではありません。すぐに効果が表れるとは限りませんが,あきらめないで色々な方向から取り組んでみましょう。

1.体重コントロール

 体重が増えると内臓脂肪が増加します。内臓脂肪から放出された遊離脂肪酸は体内の各組織でエネルギーとして利用されますが,余剰分は肝臓に取り込まれ,中性脂肪に再合成されます。肝臓では中性脂肪などを原料に血液中に脂質を運搬するVLDL(超低比重リポ蛋白)が作られ,血液中の中性脂肪が高い状態になります。VLDLは全身に中性脂肪を配って歩き,配り終わるとLDL(低比重リポ蛋白)に変わり,血中のLDLコレステロールの値を高くしてしまいます。適度な運動をしながら,体重が増えないようにコントロールしましょう。

  • 適正体重(kg):身長(m)×身長(m)×22
  • 1日の適正エネルギー量(kcal):標準体重(kg)×25~30(kcal/kg)

2.摂取する油(脂肪酸)の種類を見直す(特にLDLコレステロールが高い方)

 簡単にいえば,脂身の多い肉や加工品,揚げ物,菓子類,調味料を控えることです。

① トランス脂肪酸の過剰摂取は危険です。いくつかの大規模コホート研究では,トランス脂肪酸の摂取は冠動脈性心疾患のリスクを増やすことが示されています。

(トランス脂肪酸を多く含む食品)
ファーストフード,マーガリン,ショートニング,スナック菓子,パイ菓子,デニッシュパン,ドーナツ,クッキー,インスタント食品など

② 飽和脂肪酸,コレステロールの摂取を控えましょう

(飽和脂肪酸、コレステロールを多く含む食品)
ラード,バター,生クリーム,鶏皮,霜降りの肉,ひき肉,ベーコン,卵類(鶏卵,魚卵),内臓類(レバー,モツ),洋菓子,アイスクリーム,ココナッツ油など

③ カロリーに注意しながら,質の良い不飽和脂肪酸の摂取を心がけましょう

(不飽和脂肪酸を多く含む食品)
魚類の脂肪(青魚;EPAやDHAといったn-3系多価不飽和脂肪酸),亜麻仁油・荏胡麻油(α-リノレン酸),オリーブオイル・なたね油(オレイン酸),ゴマ油・大豆油(リノール酸)

3.食物繊維・抗酸化物質を摂取する

 食物繊維の摂取は,体内でコレステロールから作られる胆汁酸の体外(便中)への排泄を促進し,血中コレステロール値を下げる効果があるといわれています。また食後の血糖値の急激な上昇を抑える作用もあります。主食を玄米・麦・胚芽米,蕎麦,全粒粉やライ麦のパンにしたり,豆類・野菜類・果実類・きのこ類・藻類,こんにゃく等の副菜を多く摂るとよいでしょう。また,抗酸化物質はLDLコレステロールの酸化を防ぎ,動脈硬化の進行を抑えるといわれています。カラフルな色の濃い野菜類や,鮭,エビなどには抗酸化物質が多く含まれています。

4.運動

 持続的な運動によって,中性脂肪は下がり,善玉であるHDLコレステロール値は上がります。毎日30分以上または週180分以上の運動が望ましいですが,運動や労作の許される程度は,その人の基礎疾患や合併症の有無と関連します。治療中の場合は,医師にどの程度運動しても良いかを尋ねましょう。

5. 節酒

 アルコール量で男性20g/日以下, 女性10~20g/日以下にしましょう。目安としては,日本酒1合,ビール中瓶1本,焼酎半合,ウィスキー・ブランデーはダブルで1杯,ワインは2杯までです。

6. 禁煙

 禁煙し,間接喫煙(受動喫煙)も避けましょう。喫煙は,LDLコレステロールを酸化して血管壁に蓄積しやすくします。また, HDLコレステロール値を下げてしまいます。



(慶應義塾大学保健管理センター 保健師 當仲香  )