電離放射線・有機溶剤等による障害
電離放射線の障害
放射線が体に及ぼす影響
放射線は、物質を透過するときに物質を構成している原子にエネルギーを与えます。この電離作用によって作られたイオンは、さらに人体を構成している水などと反応してフリーラジカルと呼ばれる活動的なイオンをつくり、これが細胞のDNA(デオキシリボ核酸)などに傷をつけます。
フリーラジカルによって傷つけられたDNAの大部分のものは、短時間のうちに元どおりのDNAに修復されますが、中には傷が修復されないでそのまま固定したり、修復されるときに間違った形で修復されてしまい、そのまま残ってしまうことがあります。そのDNAの異常が原因となって臨床的な放射線障害、影響として現れてきます。また、DNAの異常が細胞の機能不全を引き起こし、がんを引き起こすこともあります。
電離放射線の健康診断
放射性物質を扱う者は、特殊健康診断(電離)を受診することが、電離放射線障害防止規則、放射線障害防止法で義務づけられています。研究、実習などで電離放射線をこれから使用する方と、定期的な線量測定の結果から産業医より健診を受けるべきであると判断された方は、必ず受診する必要があります。
有機溶剤・特定化学物質の障害
有機溶剤・特定化学物質は身体に様々な障害を起こします。その障害の起こり方は、次のようなものがあります。
1) 皮膚または粘膜(眼、呼吸器、消化器)に付着し、それらの部位で作用する
2) 皮膚または粘膜から吸収され、体内を循環して即効的に障害を起こす (急性症状)
3) 長期にわたる反復吸収によってその物質が特定の器官(標的臓器)に蓄積され、障害を起こす
皮膚・眼への付着・吸収
有機溶剤・特定化学物質は皮膚障害を起こします。皮膚にしみこみ、その部位に皮膚の痛み、紅斑、水疱などを起こすことがあります。また、眼に入ると、流涙、充血、眼痛などが起こります。吸収された有機溶剤・特定化学物質は毛細血管から血液中に入ります。なお、水や油に溶解しやすい有害物ほど皮膚からの吸収率が高くなります。また皮膚に傷があれば、それだけ吸収されやすくなります。
皮膚から吸収されるものとして、特に注意すべきもの
四塩化炭素、1.1.2.2-テトラクロルエタン、二硫化炭素、トルエン、キシレン、イソブチルアルコール、クレゾール、1.4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラクロルエチレン、1-ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン
呼吸器からの吸入・吸収
ガスまたは蒸気を吸入すると、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支および肺胞管などを通過します。種類によっては、気道に刺激症状を起こすものもあります。そして、多くの有機溶剤・特定化学物質は、肺胞に達すると、そこで血液中に酸素が取りこまれる際に、一緒に体内に吸収されます。
消化器からの吸収
飲み込まれてしまった有害物は胃腸から門脈とよばれる血管内に入り、いったん肝臓に運ばれ、そこで代謝されますが、肝臓機能が低下している場合や、肝臓の代謝能力を超えるほどの大量の有機溶剤・特定化学物質が吸収された場合には、血液中に流れ込んでいきます。
神経障害
有機溶剤・特定化学物質は神経障害を起こします。中枢神経系の症状として頭痛、めまい、記憶力低下、視力低下、失調症状、手指のふるえ、失神、精神神経症状(不安・短気・焦燥感・不眠・無気力など)があります。その判定に、脳波、眼科的所見、精神医学的検査などが有用です。トルエンは危険で、シンナー遊びで失神し死に至ることもあります。末梢神経系の症状として、四肢のしびれ、痛み、萎縮、筋力低下などがありますが。ノルマルヘキサンでは多発性神経炎がみられます。その判定には筋電図末梢神経伝導速度、定量的振動覚測定などが有用です。自律神経系の症状として、循環系のものとして失神、立ちくらみ、異常発汗、冷え症など、消化器系として便秘、悪心、心窩部痛、食欲不振、胃の症状などがあります。
神経医学的検査を必要とするもの(医師が必要と認めたとき)
トルエン、キシレン、二硫化炭素
視神経障害に関する検査を必要とするもの(医師が必要と認めたとき)
メタノール、酢酸メチル
末梢神経に関する神経医学的検査を必要とするもの(医師が必要と認めたとき)
ノルマルヘキサン
造血障害
トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、ベンゼンは貧血などの造血障害を起こすといわれています。初期は症状がありませんが、進行すると、めまい、ふらつきなどの症状が出現します。
肝障害・胆嚢障害
多くの有機溶剤・特定化学物質が肝臓で分解されますが、その際に肝障害を起こすことがあります。初期には症状はありませんが、進行すると、疲労感、吐気などの症状が出現します。
肝機能検査を必要とするもの(医師が必要と認めたとき)
クロロホルム、四塩化炭素、1.2-ジクロルエタン、1.2-ジクロルエチレン、1.1.2.2-テトラクロルエタン、クロルベンゼン、オルト-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン、N,N-ジメチルホルムアミド
胆管系に関する検査を必要とするもの(医師が必要と認めたとき)
ジクロロメタン、塩化ビニル、1・2-ジクロロプロパンなど
腎障害
進行すると、むくみ、血圧の上昇などが起こります。
腎機能検査を必要とするもの(医師が必要と認めたとき)
クロロホルム、四塩化炭素、1.2-ジクロルエタン、1.2-ジクロルエチレン、1.1.2.2-テトラクロルエタン、クロルベンゼン、オルト-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン、N,N-ジメチルホルムアミド
有機溶剤・特定化学物質作業時の注意
作業主任者は決めていますか
有機溶剤を使用する作業を熟知し、健康管理や環境管理の中心となる作業責任者を決めて作業しましょう。事故時や、傷病発生時、環境改善などに相談し合える環境、報告形態を作りましょう。
使用している有機溶剤の名前と化学的・物理的性質を知っておきましょう
化学物質安全性データシート(MSDS)を入手して、熟読し、保管方法、救急時の処置などチェックしておきましょう。
国際化学物質安全性計画(IPCS)が作成している国際化学物質安全性カード(ICSC)も有用です。
事故発生時には、曝露した有機溶剤等のデータシートを病院に持参すると便利です。また、作業主任者は、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質等障害予防規則などの法規を理解しておくことも必要です。
排気装置、換気装置を使いましょう
日常から、窓開放、換気に注意し、室内に有機溶剤がこもらないようにしてください。作業時はドラフトを使用しましょう。
保護具を使いましょう
有機溶剤用の保護メガネ、防毒マスク、作業着、手袋などを使って、曝露しないように注意しましょう。
作業時間のマネージメントをしましょう
作業中は熱中しがちで、継続的な作業になりがちです。作業主任者を中心に、長時間曝露しないよう、業務時間、作業形態を工夫しましょう。
保管方法、廃液の処理などは適切ですか
事故防止、環境汚染防止のためにも、日常から有機溶剤の保管や廃液の処理に工夫が必要です。色分けしたビンやラベルを使用する、鍵をかけて保管する、適温で保存する、地震や火災時に転倒しないように工夫するなど、室内だけでなく、学内または研究施設全体への影響も考えて、管理していくことが必要です。新しい作業を行う場合などは、施設の担当者に相談しておきましょう。
作業場所の環境は整理整頓されていますか
事故防止のためにも、日常から作業環境の整理整頓が必要です。火気、放電の可能性があるものなど引火物がないか、また、足元に転倒しやすい機器やコードが配置されていないか、洋服や食物、書物と実験に使用するものが混在していないか、作業者全体で整理整頓することが事故防止につながります。