神経性やせ症
( Anorexia Nervosa)

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 神経性やせ症は、拒食症とも言われ、必要な量の食事をとらずにひどくやせる病気です。心身症(心のストレスが体の症状として現れる病気)の一種で、「食べる、食べない」といった食行動によってストレスを解消しようとしているうちに、心も体もむしばまれてしまいます。

経過

 神経性やせ症になる人の多くは、小さいころから周囲に対して気を遣いすぎる性格で、表向きは適応しながらも、心の中ではどこか自分に対して満足できない感情を抱いて成長しています。完璧主義の優等生ですが、自己表現や葛藤を解決する能力には未熟なところがあり、ダイエットなどを引き金として神経性やせ症に陥ってしまいます。

 食事を減らした状態が続くと、飢餓によるストレスからβ-エンドルフィンという脳内麻薬が分泌されるようになり、深夜遅くまで勉強したり、部活動にのめりこんだりという過活動の状態になります。さらに飢餓が進行すると、胃が委縮して食べ物を受けつけなくなり、空腹感もなくなり、ダイエットハイと呼ばれる快感の強い状態になります。このころになると、正常な判断ができなくなっていて自分が病気であることを認められず、周囲の人がおかしいと思って病院受診を勧めても、拒否するようになります。

症状

 栄養が足りない状態が長く続くと、全身の臓器に不具合が生じ、様々な症状が出ます。脳が委縮して、正常な判断ができなくなり、記憶力や集中力も低下します。徐脈(脈拍が遅くなること)になったり、運動中に十分に心拍数が上がらなくなったりします。低血圧や心機能低下も認められ、不整脈のために突然死した例も報告されています。お腹が張る、もたれるなどの症状や、便秘、下痢などを認めます。女性ホルモンの分泌が減るため、月経不順や無月経となり、骨粗鬆症につながります。子宮や卵巣が委縮して、将来的な不妊症の原因にもなります。その他、身長の増加不良、免疫力の低下、産毛の増加などを認めます。

診断

 思春期では、次の3つの診断基準のうち2つ以上を満たす場合に、神経性やせ症と診断されます。

  1. 頑固な拒食、減食
  2. はっきりした身体疾患や精神症状がないのに、体重増加不良(年齢相応の体重増加がない)、または体重減少がある
  3. 以下のうち、2つ以上の症状がある:体重や容姿へのこだわり、カロリー摂取へのこだわり、肥満恐怖、自己誘発性嘔吐、下剤の乱用、過剰な運動

 ①の拒食、減食については、食事の時間が長くなる、食べるときの一口が少なくなるといったことでわかることがあります。②の体重の変化については、軽いうちは見た目や1回の体重計測だけではわからないことも多いですが、各自の成長曲線を見ると異常に気づくことができます。

治療

 神経性やせ症の治療では、①身体治療、②心理治療、③家族治療、④学校・社会による支援体制の4つの調和が必要です。異常な低栄養状態から一刻も早く脱出させることが最も重要で、深刻な体重減少に加えて徐脈、脱水、電解質異常、精神障害などを認める重症例では入院治療が必要となります。

早期発見

 神経性やせ症は、早期発見、早期治療が重要です。ひどいやせに至るほど病気が進行すると、治療が難しくなり、治るのに何年もかかってしまいます。 学校では、健康診断や身体計測の結果を校医が確認して早期発見に努めています。



※本内容は「改訂・健康のすすめ―健康な学校生活のために(小・中学生用)― 2023」(一貫教育校小中学校で配布)から引用、一部改変したものです。



( 慶應義塾大学保健管理センター 長島由佳 )