乳がん
(Breast cancer)

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乳房には赤ちゃんに与える母乳をつくるための臓器として「乳腺」があり、乳がんは乳腺から発生してくる悪性腫瘍です。乳がんの多くは「しこり」として発見されますが、しこりを作らずに乳頭からの出血や皮膚のただれなどの症状で発見されるものもあります。女性が自分で乳房を触って発見できるしこりの大きさは一般的に2cm程度以上のものと言われています。早期に乳がんを発見するには、セルフチェック(※参考サイト)、およびマンモグラフィ検査や超音波検査などの画像を用いた検診がとても重要です。日本人女性における乳がんの好発年齢は40歳台から50歳台であることから、40歳以上の女性は2年に1回はマンモグラフィ検診を受けることが推奨されています。ただし、最近は企業検診などではもっと若い年齢から検診を受けさせることが多くなってきています。とくに身内に乳がんの方がいる場合は、その発症年齢よりも10歳程度若い年齢から乳がん検診を受診していくことがすすめられています。乳房にできてくる「しこり」には乳がんだけでなく良性のものも多く存在しますが、もし自身で異常をみつけたら自己判断せずに専門医を受診してください。


乳がんは乳房のなかで増殖・成長しますが、やがてわきの下のリンパ節に転移をしていきます。さらにはもっと遠いところ、肺や肝臓、骨などの臓器に転移することを遠隔転移といいます。遠隔転移のない乳がんは完治を目指して手術治療を中心に薬の治療や放射線による治療など様々な方法を組み合わせて治療していきます。遠隔転移をしてしまった乳がんを治すことは難しく、薬の治療を中心にがんの進行を抑えできるだけ元気でいる時間を長くできるように治療していきます。

乳がんに対する手術治療は乳房の手術とリンパ節の手術を組み合わせておこないます。乳房の手術には部分切除術と全摘術があります。部分切除術の場合には、なるべく手術後の見た目(整容性)がきれいになるように配慮した手術を行います。全摘術の場合、本人の希望により形成外科の先生にも協力してもらい同時に乳房再建術(乳房の膨らみをもとに戻す手術)を行うこともあります。リンパ節の手術もわきの下のリンパ節をすべて取り去る手術(腋窩リンパ節郭清術)と、センチネルリンパ節生検といってがんが一番初めに転移するはずのリンパ節のみ調べる手術にわかれます。病状により、これらの術式(手術の方法)を組わせて治療をおこないます。


乳がんを完治させるためには、手術の前あるいは後に原則としてお薬の治療をおこないます。乳がん治療に用いる薬には様々な種類があり、乳がんのタイプや病状によって使い分けられています。乳がんの多くは女性ホルモンに反応して増えるため、女性ホルモンの働きをおさえる薬(ホルモン剤)が有効であることが多いです。また、悪性度が比較的高い乳がんに対しては化学療法剤も有効です。化学療法剤は、正常な細胞にもキズをつけてしまうため副作用に十分に配慮しながら使用する必要があります。また、特定の分子のみを攻撃する分子標的薬も多く使われます。最近は、乳がんに対しても免疫チェックポイント阻害薬といって免疫を用いた治療も行われています。


一方で、遠隔転移をしてしまった乳がんに対しては薬の治療を中心に生活の質をなるべく維持することを目的に治療をしていきます。がんに対する治療薬のほかに、病気そのものによる様々な症状を和らげるための緩和ケア治療も同時に行っていきます。人生において大切にしたいこと・やりたいことを考え、自分らしく過ごせるようご本人・ご家族と医療チームが相談して治療を行っていきます。 


※参考サイト
厚生労働科学研究費 乳がん検診の適切な情報提供に関する研究
ブレスト・アウェアネス(乳房を意識する生活習慣)のすすめ
https://brestcs.org/information/self/


慶應義塾大学医学部 一般・消化器外科(乳腺班) 関 朋子