WPW症候群
(Wolff-Parkinson-White syndrome)

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【WPW症候群とは】

 WPW症候群とは、先天的に心臓の正常な電気の伝導路以外に副伝導路(ケント束)を介する心房と心室の間の伝導が存在するものをいいます。心電図でデルタ波という波形が特徴で、不整脈がなくても診断される事があります。通常心房と心室の間は一本の回路で接続されていますが、WPW症候群の方は、それ以外にケント束という別の回路が心房と心室の間に存在し、その余分な回路がもとで不整脈が発生します。成人の健康診断では人口10万人当たり4~6人の頻度で検出されます。

【WPW症候群の症状】

WPW症候群の発作は、突然脈拍が速くなり(頻拍)、しばらく続いたあとに突然止まるという症状です。突然生じ、突然止まる動悸や胸部違和感、不快感として自覚されます。頻拍により血圧が下がると、ふらつきや目の前が暗くなる感じが出現したり、失神したりすることもまれにあります。また、頻拍が長時間続くと、心機能が低下して心不全の状態になることもあります。

【WPW症候群の診断】

 心電図検査で診断されます。心電図では、少し専門的になりますが、PQ時間の短縮(0.12秒以内)、QRS波初期にみられるデルタ波、QRS時間の延長がみられます。心電図で診断された時には約半数の方は無症候性(頻拍発作の経験が一度もない)です。発作時の心電図が規則正しい頻拍を示した場合、症候性のWPW症候群とほぼ診断できます。

【WPW症候群の治療】

WPW症候群では、症状がなかったり、短時間で止まるようなら治療は必ずしも必要ではありません。ただし症状がなくても、頻拍が長時間続くと心不全を引き起こすことがあるので注意が必要です。発作のきっかけは、人によって異なりますが、体位変換や運動時、あるいは横になる事がきっかけとなる事もあります。そのような場合、急激な動作をなるべく避けて、予防する事も出来る場合があります。発作が出てしまった場合、息ごらえをしたり、冷たい水で顔を洗ったり、冷たい水を飲むと言った事をすると自分でうまく止められる場合がありますが、うまく止まらない場合は、救急外来などでの対応が必要です。点滴等によって不整脈を止める事ができます。また、発作の頻度が多い場合は、薬剤を処方したり、カテーテルアブレーションを勧めたりします。カテーテルアブレーションとは、頻拍に関わる組織を焼灼(しょうしゃく)して頻拍を根治させる治療法で、治療成績が非常によいので薬物療法に取って替わられつつあります。頻拍を根治させることが出来るのが最大の利点です。WPW症候群であれば副伝導路(ケント束)をアブレーションの標的にします。

【無症候性のWPW症候群への対応】

成人例で無症候性のWPW症候群を積極的に治療する必要はありません。頻拍発作を生じない限り経過観察でよいです。社会的適応として、将来生じうる不整脈発作が職業的に影響の大きい場合(パイロット、運転手、高所作業者など)では予防的にカテーテルアブレーションを行うことがあります。



(慶應義塾大学保健管理センター 牧野 伸司)