長引く咳
(persistent cough)

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呼吸器の病気の代表的な症状である咳は、専門的には咳嗽(がいそう)と呼ばれています。咳嗽は持続期間で分類され、3週間未満の場合は急性咳嗽、3週間以上8週間未満の場合は遷延性咳嗽、8週間以上の場合は慢性咳嗽とされます。原因として多いかぜ症候群による咳嗽は急性咳嗽の段階で改善しますが、なかなか治らない時は下記のような様々な病気の可能性もありますので、検査のできる医療機関で受診することが望ましいとされます。


【感染症による咳嗽】

かぜ症候群でも咳嗽が遷延・慢性化した後に自然軽快することは少なくありませんが、そう考えて油断していると重大な結果を招くのが結核です。結核は現在の日本でも年間2万人弱の新規患者と2千人弱の死亡者が出ている感染症です。診断・治療が遅れれば重症化するだけでなく、大勢の人に感染させることになりますから、咳嗽が2週間以上経過しても改善傾向がないとか、再燃するような時は胸部X線検査で確認する必要があります。

その他に咳嗽が遷延する感染症には百日咳、マイコプラズマ、肺炎クラミジアなどがあり、家庭や学校、職場で集団感染することがあります。いつもと違う激しい咳や発熱を伴う時などは早めの受診が望まれます。

【アレルギー疾患による咳嗽】

咳喘息は喘鳴や呼吸困難を伴わない慢性咳嗽を特徴とする疾患で、慢性咳嗽の三大原因の一つです。咳嗽は就寝時、深夜、早朝に悪化しやすい、季節性があるなどの特徴があるとされています。治療には気管支拡張薬が有効ですが、喘息に移行することが少なくないので、吸入ステロイド薬も使用されます。

三大原因のもう一つがアトピー咳嗽で、咳喘息と同様にアレルギー性の気道炎症が主体ですが、気道過敏性の亢進がなく、気管支拡張薬で改善しないことが特徴です。アトピー素因を持つ中年女性に多く、咳嗽は就寝時、深夜から早朝、起床時、早朝の順に多く、エアコン、(受動を含む)喫煙、会話、運動、緊張などで誘発されやすいとされています。治療には抗アレルギー薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)や吸入ステロイド薬が使用されます。

その他に頻度は多くありませんが、原因に気づきにくく、肺の線維化を起こすことがあるので注意が必要な病気が過敏性肺炎です。高温多湿な日本では以前は(カビの一種の)トリコスポロンによる夏型過敏性肺炎が大半でしたが、近年の調査では生活スタイルの変化などを反映し、羽毛製品を原因とした鳥関連過敏性肺炎、不衛生なエアコンや加湿器の使用によるものを含む住居関連過敏性肺炎や加湿器肺などが注目されるようになりました。診断には詳しい検査が必要ですので呼吸器専門外来での受診が必要です。

【鼻腔・副鼻腔疾患による咳嗽】

副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、鼻中隔弯曲症などによって生じる後鼻漏は気道の咳受容体刺激や気道炎症を起こし、慢性咳嗽の三大原因の一つとされています。病態により後鼻漏症候群や副鼻腔気管支症候群と診断される場合があります。原因となる鼻疾患の治療が基本で、根気よく通院する必要があります。

【胃食道逆流症による咳嗽】

喫煙は慢性咳嗽の原因ですが、喫煙による咳嗽と思って軽視していると肺の破壊が進み、慢性閉塞性肺疾患(COPD)による呼吸不全になる場合がありますので注意が必要です。早めの禁煙が望まれます。



長引く咳には上記の他、呼吸器疾患、心疾患、薬剤性、心因性など様々な原因がありますが、感染症の拡大防止、有害物質の吸入による病態の増悪を防ぐためにもマスク着用による咳エチケットを励行し、早めに受診することをお勧めします。


(慶應義塾大学保健管理センター 森 正明)