糖尿病合併症を防ぐための血圧管理-予防のための生活習慣と家庭血圧測定の重要性-
(Management of Blood Pressure to Prevent Diabetic Complications)

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【糖尿病合併症と高血圧との関係】

糖尿病患者さんにおける高血圧の頻度は非糖尿病者に比べて約2倍高く、高血圧患者さんにおいても糖尿病の合併頻度は2~3倍高いと報告されています。また、糖尿病と高血圧はどちらも動脈硬化による大血管障害の重要な危険因子であり、両者が合併すると心血管病の発症が2~3倍に増加することが知られています。

糖尿病に伴う細小血管合併症(眼の網膜・腎臓・神経など)の予防のためには血糖コントロール(HbA1cや食後血糖など)が最も重要ですが、心臓や脳などの大血管合併症予防のためには血圧や脂質のコントロールの方がむしろ重要と報告されています。脳出血には高血圧が明らかに悪影響を及ぼしますし、心筋梗塞や脳梗塞などには脂質異常や喫煙が大きなリスクとなります。

【高血圧予防のための生活習慣】

くすりを使わない生活習慣での改善点としては、日本高血圧学会の治療ガイドライン2014に示されたように、塩分や脂肪の摂取を減らして野菜や果物を増やす、運動量を増やして体重を減らす、アルコールを控える、禁煙するなどがあります。

ただし、果物のとり過ぎは血糖コントロールを悪化させるため注意が必要で、腎臓の合併症が出てくると生野菜や果物はカリウムが多いため控えた方がよいです。また、眼や腎臓・神経などの合併症が進んでくると、激しい運動は合併症を悪化させたり起立性低血圧(立ちくらみ)のためにむしろ危険を増すこともあります。

【高血圧治療の目標値と家庭血圧測定の重要性】

65歳未満で合併症もない糖尿病の方の、将来の脳卒中や腎障害の予防などのために理想的な降圧目標は診察室血圧で130/80 mmHg(家庭血圧だと125/75 mmHg)未満ですが、実際投薬を受けている方の半数以上が達成できていないとも報告されています。

日本高血圧学会の治療ガイドライン2014でも高齢者、特に75歳以上ではまず診察室血圧150/90 mmHg未満をめざしてゆっくりと下げ、可能であれば140/90 mmHg(家庭血圧だと135/85 mmHg)未満をめざす、とされています。また、すでに糖尿病の合併症が進んでいると、起立性低血圧や立ちくらみのために転倒する危険があるため、急激な降圧は避ける必要があります。

家庭血圧を測定して記録することは患者さん自身のために非常に有益で、医療スタッフは心臓や腎臓などの動脈硬化の状況を確認しながら下げすぎにも十分注意することが可能となります。

【まとめ】

(1) 糖尿病の合併症、特に大血管障害予防のために、血圧や脂質のコントロールは大変重要です。

(2) 下げすぎの危険を避けるため、また医療スタッフへの情報提供として、できれば1日2回(むずかしければ週2, 3回でも)家庭血圧を測定しましょう。

(3) 糖尿病がある場合、理想的な降圧目標は診察室血圧130/80 mmHg(家庭血圧125/75 mmHg)未満ですが、65歳以上の高齢者の場合は原則ゆっくりと慎重に下げていくことが大切ですし、糖尿病の合併症や心臓・腎臓などの動脈硬化の状況を確認しておくことは最も重要です。



(慶應義塾大学保健管理センター 広瀬 寛)