2016年7月以降の麻疹(はしか)の感染拡大について
(Outbreak of measles from July 2016)

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【麻疹の流行状況】

日本では、麻疹は2008年の流行を最後に患者数が減少し、2015年には年間で35人の患者が報告されるのみになりました。日本国内で以前より流行していた麻疹ウイルス(遺伝子型D5株)が3年間検出されなかったことから、2015年にWHOは日本を麻疹排除国として認定しました。

しかしながら、2016年7月以降、再び麻疹の感染が拡大しており、2016年度は9月21日までに千葉県、兵庫県、大阪府、東京都を中心に130人の患者が報告されています。現在、国内で検出されている麻疹ウイルスの遺伝子型は、インドネシアなどのアジアで流行しているD8株、中国などで流行しているH1株であり、海外で麻疹に感染した人が帰国後に麻疹を発症することにより感染が拡大していると考えられています。

【麻疹に対する免疫について】

麻疹の流行を予防するためには、社会全体で92~94%の人が麻疹に対する免疫を獲得していることが必要です。麻疹はワクチン接種によって予防ができる感染症であり、1回のワクチン接種で95%の人が麻疹に対する免疫を獲得します。ワクチンによって獲得した免疫は、ワクチン接種後時間が経過することによって減弱することが知られています。麻疹ワクチンの定期接種は1978年に開始されましたが、1回のワクチン接種では免疫を獲得できない人が存在するため、2006年から1歳時に1期接種、小学校入学前に2期接種をする2回接種に変更となりました。加えて、2008年度から2012年度にかけては、中学1年生ならびに高校3年生も定期接種の対象となりました。このため、現在25歳までの人は麻疹ワクチンの2回接種を受けていますが、26歳以上ではワクチン接種を1回しか受けておらず、麻疹に対する免疫のない人が一定数存在します。また、2008年度から2012年度に行われた中学1年生に対する定期接種では,接種を受けた人は全体の87.1%、高校3年生に対する定期接種では79.6%に留まっており、現在17歳から25歳の人の中にも、麻疹に対する免疫のない人が存在します。かつて、麻疹は小児を中心に流行する感染症であり、2008年の流行時は感染者の66%が20歳未満でした。しかし、2016年7月以降の流行では麻疹感染者の73%が20歳以上の成人となっており、麻疹に対する免疫が不十分な成人を中心に感染が拡大しています。

【麻疹の症状】

麻疹は、麻疹ウイルスに感染後10日から12日の潜伏期を経て発症し、38度の発熱、咳、鼻水、目やになどの症状が出現します。発熱は2日から4日続いたあとに一度軽快しますが、その後に全身に赤い発疹と39度以上の発熱が再出現し,3日から4日続いたのちに回復します。しかし、経過中に肺炎や脳炎などの重篤な合併症を起こすことも多く、現代においても麻疹は重症感染症の一つです。また、麻疹に罹患した人は、症状が出る1日前から発疹出現後5日目くらいまで他人に感染させる可能性があり、学校保健安全法では解熱後3日が経過するまでの期間は出席停止が規定されています。

【麻疹の予防】

過去に麻疹に罹ったことがあるか否か、および麻疹ワクチンの接種回数を母子健康手帳で確認してください。過去に麻疹に罹ったことがなく、麻疹ワクチンの接種を2回受けていない場合には、麻疹に対する免疫が不十分な可能性があり、麻疹ワクチンの接種をお勧めします。しかしながら、最近の麻疹の感染拡大に伴いワクチン接種希望者が増加しており、ワクチンの不足状態が発生しています。ワクチン接種が困難な場合には、まず医療機関で麻疹抗体価検査を行い,麻疹に対する免疫の有無を確認することも一案です。



(慶應義塾大学保健管理センター 康井 洋介)