甲状腺検診
(The screening of thyroid disease)

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【甲状腺とは】

頚部の前面にある、縦4cm、厚さ1cmほどの小さな臓器です。甲状腺では、海藻などの食物中に含まれるヨードを材料にして甲状腺ホルモンが作られ、血液中に分泌されます。甲状腺ホルモンは、体の発育を促進するとともに、神経などの機能を調節したり、新陳代謝を活発にさせたりする働きがあります。健康な状態では、甲状腺は脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンによる調節を受け、甲状腺ホルモンの値は一定の範囲に保たれるように産生、分泌されています。

【甲状腺の疾患と症状】

甲状腺の疾患によって甲状腺機能に異常を来すと、甲状腺ホルモンの値が過剰になったり、不足したりします。また、甲状腺ホルモンの値には変化がなくても甲状腺に腫瘍ができる疾患もあります。

(1) 甲状腺ホルモンが過剰となる主な疾患:甲状腺機能亢進症(バセドウ病)など

(2) 甲状腺ホルモンが不足する主な疾患:橋本病など

(3) 甲状腺に腫瘍ができる主な疾患:甲状腺癌など


甲状腺ホルモンの値によって、様々な症状が出現します。しかし、非特異的な症状が多く、病院受診に至るまでに時間を要したり、自律神経失調症、更年期障害、うつ病、学習障害などと考えられ、疾患自体が見過ごされたりしている場合もあるので注意が必要です。

(a) 甲状腺ホルモンが過剰な時の症状:発汗、動悸(脈拍数が多い)、手の震え、暑がり、疲れやすい、体重減少、排便回数増加、イライラする、など

(b) 甲状腺ホルモンが不足した時の症状: 脈拍数が少ない、汗が少ない、顔や体がむくむ、疲れやすい、体重増加、気力がない、など

【甲状腺の検診】

通常の学校健診および教職員健診では、甲状腺疾患の早期発見のため、内科診察にて頚部の視診、触診を行い甲状腺の腫脹の有無を確認します。また甲状腺の腫脹が明らかでない場合もあるため、問診による自覚症状の有無も重要になります。

さらに詳しい検査として、血液検査で甲状腺ホルモンの値を直接測ることができます。また、甲状腺疾患の多くは"自己免疫疾患"と言って、自分の細胞を攻撃する抗体が出現することによっておこる疾患です。したがって、バセドウ病や橋本病に特徴的な血液中の甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)を測定すれば、甲状腺ホルモン値が正常で症状が現れていない潜在的な疾患も含めてスクリーニングを行うことが可能です。

甲状腺疾患は女性に多い病気ですが、男性にもみられ、また幅広い年齢層に発症します。女性の場合には、妊娠中に症状が増悪し胎児に影響を来す場合があり、早期発見と適切な治療が望まれます。気になる症状があるときには、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。



(慶應義塾大学保健管理センター 武田 彩乃)