蚊が媒介する感染症
(The Mosquito-borne diseases)

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【蚊媒介感染症とは】

蚊媒介感染症は、蚊に刺されることにより、ウイルスや原虫などの病原体に感染する感染症です。蚊媒介感染症には様々な疾患がありますが、デングウイルスによるデング熱と、マラリアが蚊媒介感染症の大半を占めており、毎年、デングウイルスに3.9億人、マラリアに2.1億人が感染していると考えられています。

日本では、地域差はありますが、4月より10月下旬ごろまで蚊の活動が認められます。デング熱やジカウイルス感染症を媒介するヒトスジシマカ(黒と白の縞模様があるヤブカ)は、青森以南に生息し、屋外にある空き缶などの小さな水たまりで繁殖します。ヒトスジシマカは5月中旬から10月下旬の早朝から夕暮れにかけて吸血を行います。日本脳炎を媒介するアカイエカやコガタアカイエカは水田、雨水枡などで繁殖し、4月より10月ごろまで、主に夜間に吸血を行います。

現在、日本に土着している蚊媒介感染症は、日本脳炎のみですが、過去にはマラリア、バンクロフト糸状虫症、デング熱などが日本各地で流行していました。2014年には、東京代々木公園において蚊に刺された人を中心としたデング熱の国内感染が69年ぶりに発生し、社会問題となりました。海外では、2015年より中南米を中心として、ジカウイルス感染症が流行しています。デング熱、ジカウイルス感染症、防蚊対策について以下に解説します。

【デング熱】

デング熱は、日本ではヒトスジシマカ、海外ではネッタイシマカ、またはヒトスジシマカに刺された後、3~7日の潜伏期間を経て、突然の高熱で発症します。ウイルスに感染した人の20~50%がデング熱を発症し、頭痛、目の奥の痛み、筋肉痛、関節痛などを伴い、発熱から3~4日後に体から手足、顔に広がる発疹が出現します。これらの症状は通常は1週間程度で自然に回復します。デングウイルスには4つの種類があり、異なる種類のデングウイルスに感染すると、重症のデング出血熱を発症する可能性が上昇します。

デング熱に対する治療薬は未だありません。2015年12月にデング熱に対するワクチンが開発され、現在、ブラジル、メキシコ、フィリピンにおいて使用が開始されていますが、日本では未認可です。

【ジカウイルス感染症】

ジカウイルスは、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカによって感染が媒介されます。ジカウイルスに感染後、2~13日の潜伏期間を経て、20%の人に発熱、頭痛、関節痛、皮疹などの症状が出現します。症状はデング熱より軽症であり、2~7日で回復し、重症化することは極めて稀です。ジカウイルス感染後に、手足の麻痺などを生じるギランバレー症候群の発生の増加が報告されており、関連性が指摘されています。ジカウイルス感染症に対する治療薬ならびに有効なワクチンは現在のところありません。

ジカウイルス感染症が流行しているブラジルでは、出生した新生児の頭部が小さくなる小頭症の発生がジカウイルス感染症の流行前に比べ20倍に増加しています。妊婦のジカウイルス感染により、胎児の脳の正常な発達が障害されることが、新生児の小頭症の原因と考えられています。このため、世界保健機関(WHO)は妊婦のジカウイルス感染症流行国への旅行は避けるべきであると宣言しています。また、性交渉によりジカウイルスに感染したと考えられる症例も報告されているため、ジカウイルス感染症の流行国から帰国した男性は、妊娠しているパートナーへの感染を防ぐために、性行為の際にはコンドームを使用することが必要です。

【防蚊対策】

全ての蚊媒介感染症の予防には、蚊に刺されないようにすることが最も有効です。蚊が活動する季節に屋外で過ごす時には、長袖、長ズボンなど皮膚の露出を少なくする服装を心がけましょう。皮膚の露出する部位には、ディート、ユーカリ油、イカリジン(2016年3月よりイカリジンを含む虫除け剤の販売が開始されています)を含有する虫除け剤を使用しましょう。虫除け剤を使用する際は、説明書に記載のある使用法に留意してください。吊るして使用するタイプの虫除け剤は、吸血する蚊に対して無効であることが消費者庁により2015年3月に指摘されています。屋内への蚊の侵入を防ぐためには、網戸を閉めることや蚊取り線香の使用が効果的です。



(慶應義塾大学保健管理センター 康井 洋介)