学校健康診断における座高測定の廃止
(Abolishment of sitting height measurement in school)

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【座高測定の意義】

座高(sitting height)は、身長・体重とならび、学校健康診断で毎年測定される身体計測値の一つです。被験者の背と臀部を座高計の尺柱に接するように腰かけさせ、頭部を正位に保つように軽く顎を引かせます。腰かけの座面から頭部上端までの高さを可動式の横規で読み取った値が座高です。座高測定は、明治11年、現在の学校健康診断の前身である活力検査の一環として始まり、昭和12年、学校身体検査規定の制定公布によって全国的に行われるようになりました。当初は、座高に含まれる頭部、胸部、腹部には、生命の維持に重要な働きをもつ脳や心臓などのほぼ全ての臓器が存在するため、「胴長は健康である」と考えられて始められました1)。以降、わが国では、70年以上にわたり学校健康診断の必須項目として座高を毎年継続して測定してきました。

一方、脚の長さを直接測ることは困難なので、身長から座高を差し引いた値(下節長)を脚の長さの代わりに用いることは国際的にも行われています。いわゆる「昔に比べて最近の子は脚が長くなった」といった体型の経年的な変化を評価することも、身長と同時に座高を測ることによって可能になります。さらに、低身長や高身長があったときに、座高(上節長)を下節長で割った値(上節下節比)が正常から外れていれば、病的な体格異常を疑います2)。したがって、現在の学校健康診断における座高測定は、①個人および集団の発育や体型の変化を知る、②重要な部分(脳や各種臓器)の発育を評価する、③統計処理によって集団の発育の様子が分かること3)を目的として行われてきました。

【学校健康診断検査項目の見直し】

学校健康診断の検査項目が大幅に改正された平成6年以降、子どもの健康課題も変化してきています。そこで文部科学省は、平成23年度に全国の幼稚園、小学校、中学校、高等学校約1万校を対象に「今後の健康診断の在り方に関する調査」を行いました。その中で、省略してもよいと思うと答えた検査項目の第一位が座高でした(18.1~36.6%)2)。学校現場からは座高測定は不要であるとの声も多く、ほとんど活用されていないという現状が浮き彫りになりました。この結果をふまえて、専門家を集めた「今後の健康診断の在り方等に関する検討会」で座高を含めた検査項目の見直しが行われました。その結果、平成26年4月に学校保健安全法施行規則の一部が改正され、学校健康診断の必須項目から座高測定が削除されることになりました。座高の発育評価に対する有用性はすでに述べた通りですが、学校健康診断は限られた時間内で実施されなくてはならず効率化が必要であること、子どもの発育を評価するには身長と体重の成長曲線(身長または体重の測定値を年齢に沿って、日本人の男女別標準成長曲線にプロットしたもの)を検討することで座高を測定せずとも十分に補えられること1)から、平成28年度の学校健康診断から座高測定は姿を消すことになります。そのかわり、今後は健康診断後に一人一人の成長曲線が作成され、より効果的に成長障害等の異常の発見や発育の評価が行われることになるでしょう。

参考資料

1)日本学校保健会:児童生徒の健康診断マニュアル 平成27年度改訂.東京,2015

2)文部科学省:今後の健康診断の在り方等に関する検討会.報告等・議事要旨・議事録・配布資料(cited 2015-11-19)

3)日本学校保健会:児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版).東京, 2006:37-38



(慶應義塾大学保健管理センター 内田 敬子)