ウイルス感染症を予防しよう‐ウイルス抗体価について
(Let's measure anti-virus antibody titers for prevention of virus infection)

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【はじめに】

麻疹(はしか)、風疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、水痘(みずぼうそう)などのウイルス感染症は、かつては主に子どもが罹る病気でした。しかし、小児の予防接種制度が充実してきた結果、2008年の麻疹、2013年の風疹の全国的な大流行のように、近年では成人を中心にこれらのウイルス感染症の流行が認められるようになりました。これらのウイルス感染症に対する抵抗力の有無は、ウイルス抗体価検査により判断することができます。

【麻疹(はしか)】

麻疹は、2006年に麻疹風疹混合ワクチンによる2回接種制度が導入される以前は、小児期に1回のみ予防接種が行われていました。そのため、①1回も予防接種を受けていなかった、②予防接種を受けても免疫が得られなかった、③予防接種で免疫が得られたものの時間経過とともに免疫力が低下した、ことにより麻疹に抵抗力のない成人が増加し、2008年の全国的な大流行につながりました。麻疹風疹混合ワクチンによる2回接種制度導入後は、麻疹の患者は徐々に減少し、現在では海外で感染した人が帰国後に麻疹を発症し、その周囲の人が感染する以外は認められなくなりました。しかしながら、麻疹は重篤な感染症で死亡例も多く、アジアでは依然流行が継続している国もあることから、麻疹に対する免疫を獲得しておくことが必要です。麻疹ウイルスの抗体価が、基準値に満たない場合には、麻疹ワクチンの接種が勧められます。

【風疹】

風疹は、1995年までは中学生女子のみが予防接種の対象であったため、成人女性に比べて成人男性は抵抗力が低く、2013年の大流行では男性の患者が女性の3.5倍にのぼりました。一方、女性では妊娠・出産年齢の20~30歳代に患者が最も多くみられましたが、妊娠初期の女性が風疹にかかると、胎児に耳、目、心臓の異常が高率に発生します(先天性風疹症候群)。そのため、若年女性では風疹に対する免疫を獲得しておくことが必須です。風疹ウイルスの抗体価が、基準値よりも低い場合には、風疹ワクチンを接種し十分な免疫を獲得しておくことが極めて重要です。

【流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)】

流行性耳下腺炎は、2010年以降10歳以上の患者の増加が報告されています。流行性耳下腺炎に罹ると、50%の患者が無菌性髄膜炎を併発し、脳炎や難聴を合併することがあります。また、思春期以降では、男性の25%が精巣炎を合併し、精子形成能の低下による男性不妊の原因となることがあります。一方、成人女性では、乳腺炎や卵巣炎の合併がみられます。流行性耳下腺炎ウイルスの抗体価が基準値未満の場合には、ワクチンの接種が勧められます。

【水痘(みずぼうそう)】

水痘は、予防接種が2014年に定期接種化されるまでは任意接種であったため、現在でも毎年多くの人が水痘に罹患しています。成人が感染した場合には、小児に比べて重症化し死亡することもあります。水痘の罹患歴がない人は、水痘ウイルスの抗体価を調べて、抗体価が基準値未満の場合には、ワクチン接種が勧められます。また、水痘罹患後に体内に潜伏した水痘ウイルスが再活性化して発症する病気を帯状疱疹といいます。過去に水痘に罹った人の20%が帯状疱疹を発症しますが、水痘ワクチンは帯状疱疹の発症を予防することも知られています。

【おわりに】

ウイルス抗体価は、ウイルス感染症に対する抵抗力の指標であり、それぞれ陽性、陰性と判定される基準値があります。陽性であっても数値が低い場合は感染症にかかることがあるため、ウイルス感染症と接する機会の多い医療系学部の学生ならびに医療従事者においては、ウイルス抗体価検査は必須となっています。ウイルス抗体価検査により、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎に対する抵抗力が低いと判断されたときには、最寄りの医療機関を受診し、ワクチンを接種することをお勧めいたします。



(慶應義塾大学保健管理センター 康井 洋介)