色覚検査のすすめ―職業選択の前に―
(Color Vision Test Before Your Career Choice)

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色覚検査の中止をめぐって

色覚異常の検査を受けたことはありますか。日本では、2002年まで小学校4年生全員を対象に色覚検査が行われていましたが、「差別につながる」という理由で2002年の学校保健法(現在の学校保健安全法)の改正により必須項目ではなくなりました。これ以降ほとんどの学校で色覚検査が行われなくなり、若い世代の多くの方が色覚異常の検査を受けていません。色覚異常があっても、本人は生まれつきなので特に日常生活で不便を感じていないことも多いようです。

しかし、色覚異常のある方には適さない職業があります。そのため、自分の進路を考え抜いて決めた後になって、色覚異常があるために希望の職業に就けないことが分かり、人生の目標を見失い苦悩する場合があります。

先天色覚異常の原因と分類

先天色覚異常は、眼の網膜上にある光を感じる錐体という細胞の異常により起こり、伴性劣性遺伝をします。女性に比べ男性で多く発症し、日本人男性の20人に1人、女性の500人に1人が色覚異常を持っていると言われ、日本人全体では約300万人と決して少なくありません。

光を感じる網膜の錐体には3種類(L、M、S)あり、それぞれ認識する光の波長が異なります。色覚異常は、これらが欠損または不完全な場合に起こります。程度により、1色覚(旧:全色盲)、2色覚(旧:色盲)、異常3色覚(旧:色弱)に分類されます。また、異常のある錐体の種類により、1型(L錐体の異常)、2型(M錐体の異常)、3型(S錐体の異常)色覚とも分けられます。2色覚、異常3色覚、1型色覚、2型色覚を内包する先天赤緑色覚異常が多く、1色覚や3型色覚は非常に稀です。

色覚異常と進路

たとえ異常の程度が軽くても、色覚異常のある方に適さない職業として、色彩感覚を要求される画家、デザイナーなどや、信号灯を見誤ると危険に直結する交通・運輸関係の列車・飛行機・船の操縦士などがあげられます。国家資格の受験資格に色覚の基準が設けられているのは、警察・消防・防衛省・自衛隊・航空・船舶に関するものが大部分ですが、他に毒劇物取扱責任者・ふぐ調理師では色盲を不可とし、オートレース選手・審判員は軽度の色覚異常も不可としています。また、色覚異常の程度が強い場合に適さない職業には、血液、皮膚、尿などの色を判断する必要がある医療関係や、生鮮食品の鮮度を判定する仕事があげられます。また、小学校や幼稚園で色彩や色に関連した知識を教える職業にも不向きです。大学入学時に制限を課している学部・学科も一部ありますが、制限が課されていないから色覚異常があっても大丈夫と保障されているわけではありません。


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色の見え方がもしかして他の人と違うかな?と感じたことのある方は、専門分野を選択する前に是非一度、眼科で色覚検査を受けてみることをお勧めします。

参考文献

滋賀医科大学眼科学講座HP

(慶應義塾大学保健管理センター 糸川 麻莉)