脂質異常症について
(Dyslipidemia)

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脂質異常症とは

脂質にはコレステロール、中性脂肪(トリグリセリド:TG)などがあり、コレステロールにはLDLコレステロール(LDL-C)(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(HDL-C)(善玉コレステロール)などがあります。LDL-Cが多くなりすぎると動脈硬化が促進し、一方、HDL-Cには動脈硬化を防ぐ働きがあり、少なくなると動脈硬化が促進されます。血液中のLDL-C、TGが多くなりすぎている状態、あるいはHDL-Cが少ない状態が脂質異常症です。通常は無症状で経過し健康診断などの血液検査で発見されますが、放っておくと動脈硬化が進行し心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患や脳血管障害の原因となるため、適切な値に管理することが重要です。

脂質異常症の診断基準

日本動脈硬化学会の動脈硬化疾患予防ガイドラインが2012年に改訂され、脂質異常症のスクリーニングのための診断基準は下記のように設定されています。

LDLC 140mg/dl以上 高LDL-C血症
  120~139mg/dl  境界域高LDL-C血症
HDL-C 40mg/dl未満 低HDL-C血症
TG 150mg/dl以上 高TG血症

(10~12時間絶食の空腹時採血による検査値を用いる)


今回の改訂で新たに境界域高LDL-C血症が設けられました。これはこのレベルであっても他の危険因子と相まって冠動脈疾患の発症危険度が高まり、早期に治療を開始することで予後改善が可能であると考えられたためです。従って境界域高LDL-C血症と診断された場合にも、リスクの高さに応じて食事指導をはじめとする治療介入が検討されます。

なお、2014年4月に人間ドック学会より脂質に関しても上記とは異なる基準値の検討結果が公表されました。たとえば、LDL-Cは180mg/dl以上を要医療とするものです。しかし、前回の健康情報シリーズ「新しい高血圧治療ガイドラインのポイント」でも述べられているように、この値は単年度の結果であり、各学会の診断基準を変更するものではありません。学会による基準値のバラつきはありますが、主治医とよく相談し、治療を継続することが大切です。

脂質異常症の管理目標値

動脈硬化疾患予防ガイドラインにおいて、脂質の管理目標値はHDL-C、TGについてはそれぞれ40mg/dl以上、150mg/dl未満と統一した値に設定されていますが、LDL-Cに関しては個々の患者背景によって異なる4段階の目標値が設定されています。冠動脈疾患の既往がある方は二次予防(冠動脈疾患の再発予防)を目的とした目標値である100mg/dl未満、冠動脈疾患の既往がない方は一次予防(冠動脈疾患にならないための予防)を目的として、糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患の有無や絶対リスク(年齢、性別、喫煙の有無)を評価したうえでカテゴリーⅠ~Ⅲに分けられ、目標値はカテゴリーⅠ:160mg/dl未満、Ⅱ:140mg/dl未満、Ⅲ:120mg/dl未満となります。これらの管理目標値はあくまでも到達努力目標であり、LDL-Cの20~30%低下を目標とすることも考慮されます。

脂質異常症の食事と運動

(1)食事療法

<高LDL-C血症>

  • 適正なエネルギー摂取を心がける(標準体重×25~30kcal)。
  • コレステロールや飽和脂肪酸を多く含む食品(乳製品、魚を除く動物性脂肪、卵黄、肉の脂身や皮など)を控える。

<高TG血症>

  • アルコールを控える。
  • 糖質を多く含む菓子類、穀類を控える(炭水化物由来のエネルギーを総エネルギーの50%以下とする、果物は一日80~100g以下にする)。

(2)運動療法

適度な運動はHDL-Cを増やし、TGを減らす効果があり、動脈硬化疾患やメタボリックシンドロームの予防効果が期待できます。中等度強度の運動を一日30分以上、週180分以上続けることが望ましいとされます。「中等度強度の運動」とは運動時の心拍数(脈拍/分)が138-(年齢/2)となる強度、あるいはご自身で「楽である~ややきつい」と感じる程度を目安にするとよいでしょう。

(3)その他

喫煙はHDL-Cの低下を招き、動脈硬化を進行させるので禁煙しましょう。


(慶應義塾大学保健管理センター 武田 彩乃)