エイズ・性感染症
(AcquiredImmunodeficiency Syndrome (AIDS) ・ Sexually Transrmitted Diseases (STD))

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【エイズとは】

エイズ(Acquired Immunodeficiency Syndrome: AIDS)(後天性免疫不全症候群)は、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus: HIV)感染により起こる疾患です。HIVに感染すると、身体の免疫力が徐々に低下します。免疫とは、細菌やウイルスなどの異物の侵入や、癌などのような細胞の変異に対して、身体を防御するシステムです。HIV感染が持続すると、未治療の場合には平均10年程の経過で免疫力が低下し、健康な状態では感染することのない細菌、ウイルス、真菌(かび)、寄生虫などの感染症や悪性腫瘍、神経障害などが出現し、やがて死に至ります。

【エイズの検査】

感染後2週間ぐらいで感冒様症状を認めることがありますが、ほとんどの場合無症状のまま経過します。この時期を、無症候キャリアと呼び、症状は無いものの他人に感染させる可能性があります。HIVに感染しているかどうかを調べるためには、血液検査が必要であり、感染後6〜8週間すると血液中に出現するHIV抗体の存在により診断されます。ここで重要な点は、HIV抗体ができる前に血液検査をしてしまうと、HIVに感染していても検査は陰性という結果が出るため(ウインドウピリオド)、正しくHIV感染の有無を判断するためには、感染したと思われる時点から3か月以降に検査を受ける必要があります。検査は、保健所や医療機関において匿名で受けることができます。

【エイズの予防】

HIVは感染力が弱く、感染経路が①性行為による接触、②血液を介する場合(輸血や血液製剤、針刺し等)、③母子感染(妊娠、出産、授乳時)に限られることから、注意すれば十分に予防が可能です。感染者の90%は性行為による感染であり、不特定多数の人との性行為や無防備な性行為を避けることが最も大切です。HIVは健康な皮膚から侵入することはありませんが、傷口や口腔、性器などの粘膜から感染します。したがってコンドームを正しく使えばHIVの感染を予防することができます。また、HIVの感染力は弱いので、せきやくしゃみ、唾液、汗、風呂やプール、蚊やダニなどから感染することはなく、学校や職場などの普段の生活の中で感染することはありません。

【エイズの治療】

感染が判明した人や発症した人に対して、HIVの増殖を防ぐための抗ウイルス薬(逆転写酵素阻害薬、蛋白分解酵素阻害薬など)による治療法が開発され、エイズ発症を抑えることにより死亡率は確実に低下していますが、HIVを完全に排除できる治療薬はまだ無く、予防に勝るものはない、と言えます。

【性感染症 (STD) について】

性感染症(Sexually Transmitted Diseases: STD)とは性行為に伴う接触が原因となって、直接ヒトからヒトへ、皮膚や粘膜を通して病原微生物(寄生虫、原虫、細菌、クラミジア、ウイルス等)が感染することによって生じる疾患の総称です。従来は性病と称していましたが、近年は国際的にSTDという概念が提唱されるようになりました。

日本で多く見られるSTDは、淋病、性器クラミジア感染症、陰部ヘルペス、尖圭コンジローム、トリコモナス感染症ですが、その他にも梅毒、毛虱、肝炎(B型肝炎)、アメーバ赤痢、ランブル鞭毛虫感染症、前立腺炎、疥癬(ヒゼンダニ)などがあります。エイズもSTDの代表的な疾患です。

STDの治療は早期発見、早期治療が原則であり、コンドームによる感染予防が有効ですが、口腔、咽頭、直腸等の性器以外の粘膜部位への感染にも注意する必要があります。もちろん、エイズと同様に不特定多数の人との性行為や無防備な性行為を避けることが最も大切です。また、STDの多くは一旦治癒した後も、再び新たに感染することがあり、患者だけではなく、まだ症状が現れていないパートナーの診療も併せて行い、再感染を防止することが重要です。


(慶應義塾大学保健管理センター 森木 隆典)