結核
(Tuberculosis)

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結核は過去の病気ではありません。

「呼吸(いき)すれば、胸の中(うち)にて鳴る音あり。凩(こがらし)よりもきびしきその音(おと)!」 これは明治の歌人、石川啄木が肺結核に苦しむ自身の状況を歌った句です。彼は26歳という若さで肺結核によりこの世を去りました。明治時代の日本では、結核は不治の病として恐れられ、多くの若者が結核により命を落としました。それから100年以上が経った現在、日本の結核の患者数、死亡者数は、衛生状態の改善、医療水準の向上により減少しました。しかし、日本における2011年の新規結核患者数は22,681人で、結核罹患率は米国の4.3倍、カナダの3.8倍、オーストラリアの2.8倍と依然高めで、日本は結核の中蔓延国です。また、世界に目を向けると、年間140万人の方が結核によって命を落としており、早急な制圧が必要とされている感染症です。

結核は空気感染します。

結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)により引き起こされる感染症です。結核を発症している人が咳やくしゃみをすることで結核菌を含む飛沫が空気中に排出され、飛沫の水分が蒸発し結核菌だけの飛沫核となり、長時間空中に浮遊します。この飛沫核が口や鼻から吸入されて、結核菌が肺に定着することで感染が成立します。これを空気感染(飛沫核感染)と言います。感染者のなかで発症する者は10%程度であり、逆に感染者の90%は生涯発症しません。感染してから発症するまでの期間は6ヵ月以降2年以内が多いですが、時には何十年もしてから発症することがあります。結核を発症した際の全身症状としては、発熱(典型的には午後の微熱)、盗汗(寝汗)、全身倦怠感、体重減少が見られます。肺結核の場合は、咳嗽(2週間以上続く咳)、喀痰、血痰、喀血といった呼吸器症状が見られます。

結核の予防は、個人個人の予防意識が大切です。

結核は空気感染することから、多数の人が同じ空間を共有する家庭、学校、職場では感染の危険性があります。集団感染を防ぐという安全配慮上の理由から、健康診断において胸部X線検査が法定項目として実施されています。また、結核は発病しても抗結核薬の投与で治癒可能な病気なので、早期発見、早期治療が重要です。このように、結核の予防では個人個人の予防意識がとても重要です。具体的には、「抵抗力が落ちないように、日頃から規則正しい生活をし、栄養バランスの良い食事、十分な睡眠を取り、適度な運動をするように心掛ける」、「毎年の健康診断をきちんと受ける」、「咳が2週間以上続く場合は早目に医療機関を受診する」といったことが大切です。

福澤諭吉先生、北里柴三郎博士と結核

1893年(明治26年)9月、福澤諭吉先生が土地や建設費を提供し、北里柴三郎博士(後の初代医学部長)は、日本初の結核療養所 土筆ヶ岡養生園を白金三光町に開設し、日本の結核診療にご尽力されました。これからも、福澤諭吉先生、北里柴三郎博士の志を引き継ぎ、慶應義塾一丸となって、結核感染制御に取り組んでいきましょう。


(慶應義塾大学保健管理センター 西村 知泰)