コンタクトレンズによる眼障害
(Disorder of the eyes caused by Contact Lenses)

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コンタクトレンズ(以下CL)は、私達を眼鏡の不自由さから解放し、幅広い年齢層で使われるようになりました。日本では、1950年代のハードCL(以下HCL)に始まり、ソフトCL(以下SCL)、使い捨てCLに続いて、連続装用CLが発売されました。管理の煩雑さの軽減とともに装用者数は増加していますが、同時に1990年代からCL装用による眼障害の報告が増えています。CLによる角膜の酸素不足(最新のCLで富士山山頂と同等の酸素欠乏状態)を基盤として、外傷や感染による種々の眼障害が報告されています。


【主な眼障害】

  1. 角膜上皮障害(表層角膜炎、角膜上皮びらん、角膜潰瘍)
  2. 最も多いCLによる眼障害で、角膜表面の膜状の細胞がCLにより傷つけられ発症します。CL装用後に、眼が痛い・しみる・ごろごろするなどのドライアイに似た症状が出現します。SCLの場合は装用すると症状が消える事がありますが、これは病状の改善を意味しません。原因は装用時間の超過です。

  3. 巨大乳頭結膜炎
  4. CL装用時の眼の痒み・充血・眼脂が主症状です。原因はレンズの汚れによる刺激で、予防にはCLや保存容器などの清潔管理が重要です。

  5. 角膜感染症
  6. 最も重篤な眼障害で、CLの保存液や保存容器内で増殖した細菌、真菌、アメーバが角膜に感染し発症します。眼の充血・痛み・流涙・まぶしさ・視力低下が主症状で、速やかな眼科専門医への受診が必要です。角膜潰瘍の合併から角膜混濁が生じ、視力低下が回復不可能となり、角膜移植を必要とする場合があります。最悪の場合は、角膜に穴が開いて感染が眼球内部に広がり、完全な失明に至る事もあります。感染の進行は早く1~2日で視力回復が困難な状態に陥る事があり、上記の症状が出現した場合には直ちに眼科専門医を受診することが肝要です。

【眼障害の予防】

  1. 眼の異常を感じた場合には、CL装用を一時的に中止し眼科専門医を受診してください。
  2. CLは眼科専門医による診察、処方のもとで購入し、管理の指導を受けてください。簡便なインターネットでの購入者に、重篤な眼障害が多数報告されています。
  3. CL使用者は眼科専門医で定期検査を受けてください。CLによる眼障害発症者の約6割は定期検査を受けていなかったことが報告されています。
  4. 使い捨てCLは装用日数を守ってください。全国調査では、1日使い捨てSCLを1日で交換している人は57.1%、2週間頻回交換SCLを2週間以内に交換している人は37.8%と、装用期限を守っていない人が多くみられます。
  5. CLケアを適切に行ってください。まず自分の手をよく洗ってから、CLを清潔に洗い付着している蛋白質を除去してください。その後、よくすすいでから清潔な保存容器と清潔な保存液で保存してください。不潔になった保存容器や保存液は、細菌、真菌、アメーバで汚染されていることが稀ではなく、CLだけでなく保存にも注意が必要です。特に、一液で洗浄・すすぎ・保存が行える多目的溶剤(MPS)を使う場合は、消毒効果が弱いので十分な注意が必要です。
  6. 2011年3月の東日本大震災の際には、多くのCL使用者が帰宅困難となりましたが、眼鏡、CL保存容器、新しい使い捨てCLを用意していなかったために、困った人も多かったようです。CL使用者は、緊急事態に備えて、また眼に異常を感じた時にCLをはずせるように、眼鏡、CL保存容器、新しい使い捨てCLを常に用意しておいてください。

【特殊なコンタクトレンズ】

  • 屈折矯正用コンタクトレンズ(オルソケラトロジー)
  • 近視の矯正を目的として、夜間睡眠時に装用する特殊な形状のHCLです。主に若年者に使われますが、重篤な角膜感染症の報告があり、密着度の高いレンズを連夜装用することによる発達途上の視機能への影響を心配する声もあります。眼科専門医で定期検査を受けながら、使用することが必要です。

  • カラーコンタクトレンズ(虹彩付きコンタクトレンズ)
  • 瞳を大きくみせるために、カラーCLを装着する人が激増し、それにともなう眼障害の発生が多発しています。カラーCL使用者の半数以上が、眼科医の診察を受けずにインターネットでカラーCLを購入していますが、酸素透過率が低く角膜の酸素欠乏状態により眼障害を起こしやすいカラーCLも多く販売されています。カラーCLを使う場合は、眼科専門医を受診し安全なカラーCLの処方を受けることが必要です。


    (慶應義塾大学保健管理センター 田中 祐子)