健康情報の保存と利用
(Use and storage of health information)

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■健康診断や医療機関受診の記録を保存していますか?

個人の医療や健康に関わる情報には,一生涯を通じて様々な種類があります。母子健康手帳には、母親が受診した産婦人科での出生前の胎児期の成長記録をはじめとして,出生後の乳幼児健診や予防接種の記録が記載されています。その後の学生時代から老年期までの健康診断結果や医療機関の受診記録は,学校の健康手帳,印刷された紙などに記録されていきます。しかし,これらの健康情報の利用価値が分からずに、記録を廃棄や紛失してしまう人も多くみられます。

■保存した健康情報はどんなことに役立つか?

母子健康手帳には胎児期から乳幼児期の健康情報が記録されていますが,この時期の健康状態は生涯にわたる健康の基礎情報となります。特に,予防接種や感染症の罹患記録は大変重要です。慶應義塾では,すべての一貫教育校と大学の入学時に麻疹,風疹,流行性耳下腺炎,水痘の予防接種歴や罹患歴を調査しています。学校における集団生活ではもちろんのこと、教育実習や医療系学部の病院実習では,自分自身を感染症から守り、さらに自分が感染源となり感染症を拡大させないために、免疫記録の提出が求められます。また,海外留学,就職時にも免疫記録の提出が求められます。過去の記録を大切に保管しておくことが重要です。

その後の学生時代以降の健康診断結果や医療機関の受診記録は,成人期以降に肥満や高血圧などの生活習慣病をはじめとした疾病で医療機関を受診した際に、過去の健康状態を確認するための情報として役立ちます。

■健康情報記録(EHRとPHR)

異なる医療機関や健康関連組織(健診機関やスポーツジムなど)で別々に管理されている個人の健康情報を集約・統合して共有する仕組みが「電子健康記録(Electronic Health Record、EHR)」で,これまでは個々の医療機関ごとに保存されていた健康情報を集約・統合・蓄積することにより,日本全国どこでも個人の診療記録の閲覧が可能となり,安全で無駄のない医療につながります。

一方、個人の健康情報を自己管理の下に集約・蓄積する仕組みが「個人健康記録(Personal Health Record、PHR)」で、複数の医療機関や健診機関に散在する個人の健康情報を集約・蓄積することにより,自発的な健康増進や医療機関への提示などに利用できるようになります。

■健康情報記録に関する政策

政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は,2010年5月に「新たな情報通信技術戦略における医療分野の計画」を公表しました。個人の健康情報を「電子健康記録(EHR)」として複数の医療機関で共有し,さらに「個人健康記録(PHR)」と連携して一元管理し,本来の情報の持ち主である個人に利用してもらおうと計画しています。また,集積された健康情報を,健康維持増進を目的とした予防医療に利用し,医療費の削減や健康IT産業の創出などにつなげることを期待しています。

■健康情報のクラウド化

東日本大震災では,多くの医療機関が被災し,膨大な量の医療情報が失われました。紙に記録されていたカルテ情報やレントゲンフイルムはもちろんのこと、電子データとして保存されていたカルテ情報やレントゲンなどの画像データも,コンピューター(サーバー)の破損により使えなくなり,診療に大きな支障をきたしました。

そこで,健康情報を複数の遠隔バックアップシステム機能があるコンピューターに保存する仕組み(クラウド化)が利用されはじめています。クラウド化することにより、医療機関のコンピューターが破損した場合でも、遠隔保存された医療情報を即時に確認することが可能となり,迅速な診療の再開、継続ができるようになります。クラウド化には,セキュリティや情報の標準化についての課題もありますが,健康情報を個人,国家の財産として管理するための仕組みとして期待されています。


(慶應義塾大学保健管理センター保健師 當仲 香)