危険ドラッグ(脱法ハーブなど):安全神話の誤解
Dangerous drugs (Extralegal herbs): misunderstanding of the safe myths

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2014年6月24日、脱法ハーブ吸引後に自動車を運転したため、東京池袋の路上で通行人1人が死亡し6人が重軽傷を負った事故は、皆さんの記憶にまだ新しいことと思います。著者も、昨年、脱法ハーブ使用後の幻覚に支配されて行われた放火事件の精神鑑定を経験しました。社会問題になっている脱法ハーブなどの脱法ドラッグの蔓延には、その危険性が十分に理解されていないことが背景にあることから、新たに「危険ドラッグ」と呼ばれることになりました。


【脱法ハーブとは】

世間が「脱法ハーブ」と呼ぶものを「合法ハーブ」という人もいますが、「合法」とは未だ違法薬物には指定されていないという意味です。脱法ハーブの主成分は、大麻の主成分であるカンナビスに属する合成カンナビノイドで、いずれは「違法」物質になるものです。現在、個々の脱法ハーブに含まれる合成カンナビノイドを特定して、違法薬物に指定していくという作業が進められています。しかし,1つ指定されると,次に同様の薬理作用を有する類似の未指定物質が出現し,新しい脱法ハーブとして店頭やインターネットで販売されるようになり,いたちごっこの状態が続いています。

【脱法ハーブの乱用者】

脱法ハーブの乱用は若年者に多く、「脱法」または「合法」という言葉に象徴されるように、その多くがごく普通の青少年です。乱用者の多くは、遊びや好奇心から脱法ハーブを使用し、罪悪感も乱用の認識も持っていません。ただし、強いストレスやトラウマを抱える青少年に乱用者が多い傾向があります。さらに、薬物の乱用には友人関係が大きく関与しますが、友人の影響の受け方には個人差があり,学校や家族の関与によって友人の影響が緩和される場合もあります。また、喫煙は脱法ハーブ使用へのゲートウェイとなるだけでなく、友人関係の変化への影響力も強いことから、青少年の喫煙行動には注意を払う必要があります。

【脱法ハーブの健康障害】

脱法ハーブの中毒症状で救急搬送される者の多くが、大学生、高校生などの若年者です。含有成分が明らかでない脱法ハーブの中毒では、医療機関における処置が遅れる場合があり、中毒死などの悲惨な結果を招くことがあります。また、使用開始年齢が早いほど使用は長期化し、依存へと移行しやすく、発達に重篤な影響を及ぼします。さらに、脱法ハーブを思春期から使用した場合には,精神病症状を合併することが多くなり、その後の持続使用で知能指数(IQ)の低下につながることも報告されています。また、脱法ハーブによる酩酊中に引き起こされた事故や事件が数多く報道されていますが、加害者が青少年の場合には責任をとる能力がなく、被害者はもちろんのこと、加害者の家族なども含めて多くの関係者にとって極めて不幸な結果につながります。



夏休み中に羽目をはずし、脱法ハーブなどの「危険ドラッグ」に手を出さないでください。後で大きなつけを払うことになります。


(慶應義塾大学保健管理センター・精神科 西村 由貴)