ノロウイルスの予防

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ノロウイルスは感染性の強いウイルスです。英国では、winter vomiting bug (冬季の吐き気を起こす虫)と言われていますが、冬場によく流行し、胃炎、腸炎を起こすウイルスです。ノロウイルスは一種類ではなく、いくつもの型があります。一度ノロウイルスに罹患して、免疫を獲得しても、それは違う型に対して無効であることもあります。そのため、新種が流行した場合、多くの人がノロウイルスに罹患して、大流行になることがあります。毎年の新種の出現に注意が必要です。

ノロウイルス感染症の感染経路

感染者の便や吐物中に、活動性のあるノロウイルスが排泄されます。それらは、最終的には河川に流れ出ますが、大都市の河川でノロウイルスが検出されるとする報告もあります。その結果、ノロウイルスは水中の生物、特に牡蠣などの貝類に蓄積されていきます。よって、ノロウイルスを体内に蓄積した魚介類を生で食べるとノロウイルスに感染します。

ノロウイルスに感染した魚介類を扱ったキッチンでは、水や調理器具がノロウイルスに汚染され、それらを介して、別の食材にノロウイルスの汚染が広がります。その食材に火が通っていない場合、それらの食材を食することでノロウイルスへの感染が成立します。「魚介類を食べていないのにノロウイルスに感染してしまった」ということもよくあります。

手指にノロウイルスが付着していると、食事の時などにそれが口から体内に入り、ウイルス感染が成立することがあります。ノロウイルス感染者の手指には、排便の際などにノロウイルスが付着します。ノロウイルスが手に付着しても、適切な手洗いを行なえば洗い流されてしまいますが、不十分であるとノロウイルスは手指に残ります。その人がその手で色々なところを触るとそこにノロウイルスが付着してしまいます。そこに、別の人が触れると、その人の手指にノロウイルスが付着することになり、ノロウイルスの感染が成立します。このように、ノロウイルスは食べ物とは関係なく環境から感染してしまうこともあります。

ノロウイルスは感染者の吐物の中にも生息していることは述べましたが、さらに、その吐物が乾燥した状態でもその中に生き続けています。その乾燥した吐物が空中に飛散し、人の口に入り感染が成立することもあります。

ノロウイルス感染症の臨床症状

ノロウイルス感染症で最も顕著な症状は、下痢、嘔気、嘔吐です。胃痛や頭痛、発熱を伴うこともありあります。これらの症状は、感染から 12-48 時間後に出現します。しかし、多くの場合 1-3 日で改善します。しかし、下痢、嘔吐が強い時は、脱水症状を起こすこともあるので、注意が必要です。

ノロウイルス感染症の治療

ノロウイルス感染症への特効薬は今のところありません。塩分を含んだ水を多く摂取し、脱水になることを防ぐことが重要です。スポーツドリンクや経口補水液の摂取が勧められます。重症の脱水になってしまった場合は、入院が必要なこともあります。

ノロウイルス感染症の嘔気、嘔吐に制吐薬が有効なこともあります。嘔気、嘔吐が強く薬を飲むことができない時は、座剤の制吐薬を使用することもあります。

ノロウィルス感染症の予防

  • 手洗い

    手指に付着したノロウイルスは適切な手洗いによって、洗い流すことができます。よって、食事の前、調理の前、トイレに行った後、帰宅時、登校時の手洗いを十分行ないましょう。石鹸または手指消毒剤を用い、水道水で30 秒以上流すことが推奨されています。指と指の間をよく洗いましょう。

  • 食材の洗浄

    ノロウイルスに感染した魚介類と一緒に調理した食材にノロウイルスが付着することがあります。魚介類を調理した時は、魚介類以外の生食をする食材もよく洗ってください。魚介類を調理する際には、他の食材の調理が終わってから行うと良いかもしれません。魚介類を調理した後のシンクを水道水でよく流すことも重要です。

  • 熱による殺菌

    ノロウイルスは、熱によって殺すことが可能です。しかし、ノロウイルスには耐熱性があり、米国疾病予防管理センター (CDC) は 140 0F (60 ℃)程度では殺菌できないとしています。国際連合食糧農業機関 (FAO) と世界保健機関 (WHO) の共同見解では、食物に付着したノロウイルスを熱で死滅させるには、中心部までを 90 ℃程度で90 秒以上熱することが必要とされています。それを達成するため沸騰したお湯に3分以上つけておくことが推奨されます。生牡蠣は美味ですが、ノロウイルスの流行シーズンには、フライや鍋など、十分熱して食べることをお勧めします。尚、熱湯をかけただけでは、ノロウイルスは殺菌できません。食器などを熱消毒する時は90秒以上煮沸してください。
    尚、衣類や寝具など、あまり高温の処理ができない素材の場合、65 ℃程度の湯に30分以上浸すことが推奨されます。

  • 次亜塩素酸による殺菌

    アルコール(エタノール)は、ノロウイルスの殺菌には無効で、代わりに次亜塩素酸溶液の使用が推奨されます。トイレの便座、ドアノブ、机の表面、食器などは、0.02% 溶液*を浸した布やスポンジで拭いてください。食器は同液に浸すことで、殺菌も可能です。しかし、食器に次亜塩素酸を用いた場合は殺菌後に水道水で良く流してください。また、製品によっては、次亜塩素酸を使用すると傷んでしまうものあるので、注意してください。
    *0.02% 次亜塩素酸溶液; 市販のキッチンハイターは 5% 次亜塩素酸溶液です。500 mlの 空のペットボトルを水道水で満たし、2mlのキッチンハイターを入れることで次亜塩素酸 0.02% 溶液が作成できます。

  • 嘔吐物の処理

    ノロウイルス感染者の吐物は同ウイルスの感染源になります。ノロウイルス感染者が本来吐物を吐くべきでないところに嘔吐してしまった場合、それを速やかに処理することが重要です。清掃には以下の手順が推奨されます。

    処理の仕方

    • 清掃を行なう者は手袋、マスク、ガウンを着用する。目を保護するゴーグルの着用も推奨される。
    • 新聞、ペーパータオルなどで吐物が飛散しないように拭き取り、拭き取った後はビニール袋に入れる。
    • 拭き取った後にディスポーザルの布に 0.1 %次亜塩素酸溶液を浸し、その吐物が広がった部位を拭く。使用した布もビニール袋に入れる。
    • 汚染物を入れたビニール袋は口を縛って廃棄する。
    • 衣類に吐物が付着した場合は、吐物を水で洗い流し、65 ℃程度の湯に30分以上浸す。
    *0.02% 次亜塩素酸溶液; 市販のキッチンハイターは 5% 次亜塩素酸溶液です。500 mlの 空のペットボトルを水道水で満たし、2mlのキッチンハイターを入れることで次亜塩素酸 0.02% 溶液が作成できます。

    次亜塩素酸使用時の注意

    • 刺激性が強いので、皮膚の消毒には用いない。
    • 使用時にはビニール手袋を使用する。皮膚についた時は速やかに水洗いする。
    • 十分な換気下で使用する。
    • 他の薬剤、溶液と混ぜると有毒ガスが発生する可能性があるので、単独で用いる。(水道水との混合は問題ない。)
    • 金属や衣類で、製品を傷めてしまう場合がある。
    • 直射日光にあてると変性し、効力が失活する場合がある。
    • 長期間作り置きをしておくと分解し効力が失活する場合がある。

    ノロウィルスに感染してしまったら

    治療

    特効薬はありません。

    脱水予防のために、水分補給をしましょう。スポーツドリンク、経口補水液が推奨されます。

    嘔気、嘔吐、下痢がひどい場合は、医療機関を受診してください。医療機関に電話などで事前に受診できるかどうか確認してから受診するのが良いでしょう。

    他の人に感染させないための注意

    手洗いをよく行なってください。特にトイレの後には入念に洗いましょう。

    他人に食べさせる食材の調理は避けてください。同居者がいる場合は、キッチンの汚染の原因になるので、キッチンには入らないようにしましょう。

    食事が提供される場合、ディスポーザルの食器を使い、食後に適切に捨てられることが推奨されます。

    同居者がいる場合、ドアノブ、引き出しの取手、水道蛇口、トイレの便座、トイレの水洗レバーなど、触れた場所を0.02% 次亜塩素酸を含んだ布で拭きとりましょう。

    同居者がいる場合、浴槽を使った入浴は避けて、シャワーですませましょう。シャワー終了後も浴室の床をよく流しましょう。

    他人との接触をできるだけ避けてください。特に、子供、老人、重病の人との接触はやめましょう。

    職場、学校への連絡

    ノロウイルス感染症が疑われ、外部医療機関や保健管理センターで就業あるいは登校禁止措置の対象になった場合は職場、学校、または各キャンパスの保健管理センターに連絡してください。

    就業あるいは登校禁止期間は、通常、症状が改善するまでです。

    症状が改善した場合、各地区の保健管理センターで医師の面接を受けてから業務あるいは授業に戻ってください。

    ノロウイルスは症状が改善しても、感染から2週間程度は便中に排泄されるとされています。症状が改善した後もしばらくは、特にトイレに行ったあとの手洗の励行を継続することが望まれます。