シリーズ9回目の本稿では、特定健康診断・特定保健指導の運営を担っている健康保険組合の立場から、制度としての特定保健指導とその運営についてご説明します。
背景
2008年度から始まった「特定健康診査」「特定保健指導」ですが、2018年度からは、それぞれの実施率に目標が設定され、目標値よりも著しく低い場合には健康保険組合(以下、健保)等の保険者に対してペナルティが課せられる(*)制度になりました。
ちょうど当健保の財政が悪化し始めた時期でもあり、当健保としても、加入者の方々の健康を守るという目的に加えて、経済的な面からも力を入れて働きかけを行う必要に迫られました。
現在の運用
それまでは保健管理センターのみで行っていた特定保健指導の受診案内を、これをきっかけに健保からも行うことにしました。また保健管理センターでの指導以外の選択肢として、企業に委託した特定保健指導も開始しました。保健管理センターとも年数回の打ち合わせを重ね、年々やり方を改善してきた結果、2022年度は受診案内を当健保からに一本化し、保健管理センターを含むいくつかの選択肢から対象者の方に選んでいただく形にしています。
保健管理センターでの指導以外に、タブレット等による遠隔指導や、管理栄養士あるいは健康運動指導士による指導、近隣の薬局店舗での指導など、内容の異なる複数の指導を用意していますので、ご自身のニーズや状況に合った指導を受けていただくことが可能です。現在のところは勤務地区で医師・保健師の指導を直接受けることができる保健管理センターが一番人気で、申込者の7割以上が選択しています。
また2021年度からは、受診案内とあわせて、生活習慣病の発症リスクが高い対象者の方々に「たしかに生活を変える必要がある」との納得感を持っていただくため、脳卒中・心筋梗塞・糖尿病を発症する統計確率や、同性同年齢の中での各健診値の100人中の順位等を記載した「生活習慣病リスクレポート」をお送りしています。ご自身のリスクを自覚していただくことで、たとえ特定保健指導を受けることが難しい場合であっても、ご自身でアクションをとっていただくきっかけになればと考えています。
課題と展望
ここ4-5年で一気に活性化した特定保健指導ですが、当健保加入者の受診率は高いものではありません。厚生労働省等が保険者ごとに作成した「健康スコアリングレポート」を当健保ウェブページに掲載しておりますが、特定保健指導の受診率は目標に遠く及ばない状況が続いています。
在職加入者の皆さまにおいては、対象者になった場合に指導を受けることはもちろん、一人一人が本連載で提案されているようなtipsを生活に取り入れ、指導の枠組みから卒業していくことをぜひ目指していただきたいと思います。
* 当健保のような単一健保は、2023年度(2022年度実施の特定健康診査・特定保健指導)の受診率最低ラインは、特定健康診査70%、特定保健指導11.5%となっています。それぞれ基準に満たない場合には、0.5%~10%が後期高齢者支援金(健保組合が国の高齢者医療制度のために拠出する納付金の一つ、2022年度は12.4億円見込み(→ 0.5%≒620万円/10%≒1.2億円))に加算されます。
参考資料
1)慶應義塾健康保険組合 特定健診・特定保健指導とは http://www.kenpo.keio.ac.jp/contents/03hoken/metabo/about_metabo.html
2)厚生労働省 特定健診・特定保健指導について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html
3)慶應義塾健康保険組合 健康スコアリングレポート http://www.kenpo.keio.ac.jp/contents/03hoken/score/index.html (当健保加入者専用のページです。ID・パスワードは、健保時報(年数回、福利厚生サービスの会報誌に同封して加入者の皆様のご自宅宛てに郵送しています)に掲載しています)