2022年度健康情報シリーズ臨時特集"特定保健指導"
⑤ニコチン依存症から抜け出しましょう
(Get out of nicotine addiction!)

  • Date:

喫煙に関する身近な影響力

 2000年以前のドラマをみると、喫煙シーンが当たり前のようにでていました。しかし、最近のドラマでは明らかに見かけなくなっています。2003年に米国のダートマス医科大学小児科の研究グループはLancet誌で、喫煙シーンが子供の喫煙開始の主要原因となることを証明した調査研究を発表しました。一度も喫煙したことのない子が喫煙シーンのある映画を見た場合、喫煙シーンを見た回数が多いほど喫煙開始する割合が増えたことが分かりました。近年、我が国でも健康増進法改正に伴う分煙や禁煙への意識が高まっており、ドラマやCM、漫画などの喫煙シーンを自粛する風潮が広がっています。

なぜ、人は煙草を吸うのか

 煙草にはニコチンが含まれており、そのニコチンには麻薬と同等以上の依存性があるためです。喫煙するとニコチンが血液内に溶けて約10秒で脳にある受容体と結合します。結合後、ドーパミンが放出され快感を生じさせます。この快感を持続させるために次から次へと何本も吸ってしまうのです。ニコチン依存症には身体的依存と心理的依存がありますが、どれくらい依存しているかはニコチン依存症スクリーニングテスト(TDS, Tobacco Dependence Screener)が有用です。全10問中、5点以上該当するとニコチン依存症と診断され、治療適応となります。

煙草がもたらす健康被害

 煙草にはニコチン以外にもタール、一酸化炭素など70種類以上の発がん性物質が多量に含まれています。そのため虚血性心疾患や脳卒中以外にも慢性閉塞性肺疾患、2型糖尿病、骨粗鬆症、消化性潰瘍など様々な健康被害に影響しています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響でほとんどの人が常にマスクをしていますが、口腔内に染み付いた煙草の臭いはマスクをしていても漏れでてしまいます。喫煙は口臭だけでなく歯周病や口腔がんにも影響し、非喫煙者と比較して治療効果が得られにくいことが分かっています。

禁煙治療用アプリが登場

 施設基準を満たした施設で、患者条件に満たす場合(①1日の喫煙本数と喫煙年数を掛け算した数値が200以上、➁直ちに禁煙を開始する意思がある、③ニコチン依存度テストによって依存が認められる、④全12週間のプログラムに参加することを署名で同意できる)に、保険診療で禁煙治療を行うことができます。標準的な禁煙補助薬として貼り薬のニコチンパッチと飲み薬のバレニクリンがあります。我が国ではどちらを選択しても禁煙成功率は同等であるといわれています。禁煙成功率は7〜8割といわれていますが、失敗率についてファイザー株式会社は2016年に「喫煙に関する47都道府県調査2016」で、過去1年間で禁煙に挑戦したものの喫煙をやめることが出来なかった人は28.0%いたと公表しました。失敗の原因は様々ですが、喫煙が習慣化してしまい再喫煙に至ってしまうことは多いです。クリニックや病院外における精神的な部分での禁煙対策が課題でしたが、2020年12月、国内初の保険適用の治療アプリとしてCureApp社が開発した禁煙治療補助アプリ(CureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー)が発売されました。CureApp SCは、患者が自宅や診療外の日常生活で禁煙に取り組みながら、アプリによって身体データや心理的状況を可視化することで、ニコチン依存症からの脱却をフォローし、治療のモチベーションを維持することを目的としています。薬剤と異なり目立った副作用は報告されておらず、スマートフォンの特性を活かし禁煙成功率を高める一助となることが期待されています。


【参考資料】
1)Madeline A. Dalton, et al., "Effect of viewing smoking in movies on adolescent smoking initiation: a cohort study." THE LANCET, Vol.362, 281-285, 2003
2)https://www.perio.jp/publication/upload_file/Pamphlet_Challenge.pdf
3)吉澤孝之等, 禁煙治療におけるバレニクリンとニコチンパッチの治療成績の検討. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌, 第23巻2号,188-192, 2013
4)中央社会保険医療協議会: 診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保健医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書
5)https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2016/documents/2016091601.pdf
6)慶應義塾大学保健管理センター 健康情報シリーズ「禁煙は必ずできます」
http://www.hcc.keio.ac.jp/ja/health/2019/05/you-can-always-quit-smoking.html



(西江 美幸)