生活習慣改善のポイント:慢性腎臓病
(Lifestyle modification for prevention and treatment of chronic kidney disease (CKD) )

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【慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)とは】

 推定糸球体濾過量(estimated Gomerular Filtration Rate;eGFR)は,腎臓が1分間にどの程度尿を作ることができるか,あるいは腎臓がどれくらい老廃物を排泄する能力があるかを示しています。血液検査のクレアチニン値と年齢,性別を用いて算出され,腎臓の働きが正常であれば,100 mL/分/1.73m2前後になります。①「eGFRが60 mL/分/1.73m2未満(=腎臓の働きが60%未満)」,②「蛋白尿など尿検査、血液検査、画像診断などで明らかな腎障害を認める」のどちらかまたは両者が3か月以上継続した場合に,慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)と診断します。

【基礎疾患の治療】

 慢性腎臓病以外の基礎疾患がある場合は,早期に適切な治療が必要です。糖尿病による腎機能障害(糖尿病性腎症)は、透析療法が必要になる原因疾患の第一位です。高血圧症も、動脈硬化を悪化させ腎機能障害の原因となります。このような基礎疾患を適切に治療することが腎機能悪化の予防につながります。また,腎臓機能低下によって生じるさまざまな合併症(貧血,ミネラル異常,骨の異常など)を認める場合には,その治療が必要です。

【生活習慣改善のポイント】

 慢性腎臓病に対する生活習慣改善のポイントは、病気の進行度や性別,年齢,生活状況によって異なります。ここでは,腎機能が軽度~中等度低下している場合(eGFR=30~59 mL/分/1.73m2)について、説明します。

1.食事療法
① 塩分の制限

一日の塩分摂取量の目安は3~6g/日未満,つまり一食1~2gです。通常の外食では,一食5gくらいの塩分が含まれていることから,『かなりの薄味』を習慣づけないと達成できません。

<減塩食のコツ>

  1. 味付けや下味に塩は使わず、塩や醤油,調味料は別皿にしましょう。
  2. 出汁,香辛料,香味野菜(ねぎ,生姜等)やレモン汁等の果物の酸味を利用し、市販の調味料はレモンや出汁で半分以上薄めてみましょう。
  3. もともと塩分が多くコントロールしにくい加工品(練り物,ソーセージ,ハム類),すし飯,汁物,インスタント食品,麺類,漬物,菓子,パン類を控えましょう。また,外食は塩分のコントロールがしにくく,味付けが濃いので,できれば自炊しましょう。
  4. コンビニ等でテイクアウトする際には,塩分を確認してから購入しましょう。
② 蛋白質の摂り方

 過剰な蛋白質の摂取は、腎機能を悪化させます。蛋白質に偏った食事を摂らないように気を付けましょう。ごはんにも蛋白質が含まれていますが,蛋白質調整米を使うと副菜を増やすことができます。

 一部のスポーツクラブやエステでは,体重減少を目的として炭水化物を減らし,鶏のささみ肉や牛の赤身肉,プロテインなどの蛋白質や野菜主体の食事療法を勧めることがありますが,このような食事を続けると腎臓に負担がかかる可能性があります。

③ カリウム,リンなどのミネラル,水分の摂り方

 腎機能が低下している時には,カリウムやリン,水分の制限が必要な場合があります。しかし、服用している薬や症状にもよりますが,一般的に極端な野菜や果物の摂取制限をする必要はありません。貧血や骨粗鬆症予防のためにもバランスの良い食事を心がけましょう。

 調理の工夫としては,カリウムは水に流れやすいので,水にさらしたり,茹でた温野菜にするとよいでしょう。また,加工食品やチョコレート,ナッツの菓子類,コーラなど無機リンが多い食品は避けましょう。

 また,適度な水分補給を行わないと脱水症状を引き起こし,腎臓に負担をかけてしまいます。むくみがなければ,水分を制限する必要はありません。適度に水分補給をし,トイレは我慢しないようにしましょう。

④ 適切なエネルギー摂取量,肥満予防

 エネルギー制限をすると血中の老廃物が多くなるため,食事療法では「エネルギーをしっかり確保する」ことが重要です。ただし,肥満がある場合は,エネルギーの摂りすぎは避けてください。肥満は血圧を上げ,心臓に負担をかけ,全身の動脈硬化を進めます。また,内臓脂肪が蓄積すると,尿酸産生が促進されたり,「インスリン抵抗性」(インスリンが効きにくくなること)の状態となったり,腎機能が低下する原因となります。身体活動量に見合ったエネルギー摂取量が必要です。


2.過剰なサプリメントや健康食品の摂取は避けましょう。

 偏ったサプリメントや健康食品の摂取はかえって腎臓に負担をかけることがあります。また、医薬品の中には、腎臓の負担となるものもあり、内服する場合には主治医に相談してください。


3.適度な運動

 腎機能が低下している場合は,これまでは安静にすべきと考えられてきました。しかし,適度な身体活動は,身体機能の低下(サルコペニア)や日常生活の活動性などの低下(フレイル)の予防,運動処理能力や認知機能の保持につながることがわかっています。運動量については,心不全や狭心症,高血圧,糖尿病など基礎疾患がある場合は主治医に相談しましょう。


4.ストレスは避け,睡眠は十分とる。

 睡眠不足や不規則な生活,過労,過度のストレスは、腎臓の負担となります。休憩時間や帰宅後には、リラックスする時間をつくり,睡眠は十分にとりましょう。


5.節酒

 アルコール量で男性20~30ml/日以下, 女性10~20ml/日以下にしましょう。目安としては,日本酒1合,ビール中瓶1本,焼酎半合,ウィスキー・ブランデーはダブルで1杯,ワインは2杯までです。塩辛いおつまみの摂取には注意しましょう。


6. 禁煙

 禁煙し,間接喫煙(受動喫煙)も避けましょう。喫煙により. 腎機能低下のスピードは早まり,腎不全へ進行しやすくなるといわれています。



(慶應義塾大学保健管理センター 保健師 當仲香 )