溶連菌感染症
(Streptococcal infection)

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 溶連菌の正式名称は溶血性連鎖球菌です。赤血球が壊れる現象を溶血と呼びますが、血液を含む寒天で作られた培地の上で、この細菌を増殖させると溶血がみられることから、このような名前がつけられました。細菌の特徴としては細胞壁とよばれる部分があります。溶連菌は細胞壁の種類によって、アルファベット順の群に分類されますが、主にA群とB群が病気を引きおこす菌として有名です。ここではA群連鎖球菌による咽頭炎・扁桃炎と皮膚感染症、その合併症について取り上げます。

【咽頭炎・扁桃炎】

 小児の細菌性咽頭・扁桃炎の原因のほとんどを占めます。主に5~15歳の小児が罹り、学童初期に最も多くみられます。成人例もありますが、3歳未満の乳幼児には稀です。冬季および春から初夏にかけて多く、感染経路は唾液や鼻汁を介する飛沫感染であり、潜伏期間は通常2~5日です。症状のない保菌者からの伝播はほとんど見られません。発症は急激で、咽頭痛で始まり、倦怠感、38℃以上の発熱、頭痛を認めます。咽頭培養または迅速抗原検査でA群連鎖球菌が証明されたら、症状の改善、合併症(後述)の予防のために抗菌薬を投与します。咽頭培養検査では、結果が陽性になったときに病気である確率が9割以上と高く、検査では喉の奥と扁桃の両方を綿棒で擦ります。なお、迅速抗原検査のその確立は少し下がります。

【皮膚感染症】

 伝染性膿痂疹と呼ばれる皮膚の化膿性感染症で、いわゆる「とびひ」です。黄色ブドウ球菌が原因となることが多いですが本菌も原因になります。接触感染により伝播し、熱帯・亜熱帯気候の衛生状態の悪い小児に多く、やや寒い地域では夏季に多くみられます。2~5歳に多く、皮膚の傷にまず付着し、平均10日かけて皮膚病変を形成します。傷や虫刺さされが誘因となり、急に始まり、紅斑を伴う小さな水疱が形成されます。

 また、丹毒と呼ばれる皮膚感染症は皮膚表層に限局した化膿性の連鎖球菌感染症であり、病変部位と正常皮膚との境界は明瞭です。

【合併症】

 咽頭・扁桃炎の化膿性の合併症として、扁桃周囲膿瘍、化膿性頸部リンパ節炎、急性副鼻腔炎、中耳炎、乳様突起と呼ばれる骨の内部の感染などがあります。非化膿性の合併症として、2つ有名なものがあります。1つ目はリウマチ熱といって、心臓の炎症による胸痛や動悸、関節の痛み、脳の炎症によるコントロールできない顔・手・足の動き、皮膚の下の小さなしこり、輪を縁取ったような皮疹などの項目を数え診断されます。2つ目は急性糸球体腎炎といって、腎臓の糸球体という部位に炎症が起き、血尿や蛋白尿が認められます。咽頭炎からの潜伏期間は、リウマチ熱で平均18日、急性糸球体腎炎で平均10日です。さらに、チックなど強迫性症状を呈する自己免疫性の神経障害なども報告されています。

 皮膚感染症にリウマチ熱は続発しませんが、急性糸球体腎炎は続発します。皮膚の化膿性感染症から急性糸球体腎炎が出現するまでの潜伏期間は平均3週間です。

 なお、学校における児童生徒および職員の健康を守るために学校保健安全法という法律があります。その法律では「状況により出席停止になる伝染病」に分類されています。抗菌薬が適正に開始され24時間が経過すれば、本菌は伝播しないとされているため、この時期に解熱し全身状態が良ければ登校は可能です。抗菌薬の第一選択はペニシリンです。リウマチ熱の予防になる根拠が確立していること、耐性菌が存在しないこと、安全に使用できること、効果をもたらす細菌の範囲が狭いこと、安価であることが理由です。



(慶應義塾大学保健管理センター 河津桃子  )