糖尿病の慢性合併症
(Chronic Diabetic Complications)

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1. はじめに

 インスリン作用の不足に起因した高血糖をはじめとする様々な代謝異常が長期にわたって持続することにより、小さな血管に障害を起こします。特に、神経・眼の網膜・腎臓の血管に障害が起きやすく、以下の2,3,4は糖尿病の「細小血管障害」とか「三大合併症」と呼ばれています。また、糖尿病に特有ではありませんが、5の大血管障害も糖尿病の重要な合併症です。

2. 神経障害

 糖尿病性合併症の中で最も合併頻度が高いといわれており、一般的には糖尿病患者の40%前後、罹病期間20年以上の糖尿病患者では約90%に何らかの神経障害が合併するといわれています。糖尿病性神経障害には、末梢神経障害(両足先のしびれから始まり、知覚鈍麻、自発痛、筋萎縮、脱力などが起こります)、および自律神経障害(四肢冷感、起立性低血圧、排尿障害、インポテンツ、便秘・下痢など)があります。また、痛覚麻痺により、足や指などの小さなケガの悪化から壊死や四肢切断の事態にもなり得ます。

3. 網膜症

 糖尿病網膜症の初期には、眼底検査で毛細血管瘤(こぶ)や点状出血などが認められます。レーザー治療などの適切な治療を行わずに進行すると、硝子体出血や網膜剥離が起こり、成人における失明原因の上位を占める疾患です。長期にわたり血糖値を厳格にコントロールする(HbA1c 7%未満など)ことにより、網膜症の発症と進展が抑制されることが明らかになっています。

4. 腎症

 糖尿病性腎症の初期には、検尿で微量アルブミンが検出され、進行すると持続性の蛋白尿となります。腎機能が低下すると、全身の浮腫や尿毒症などを来たし、透析療法が必要になります。糖尿病の増加に伴い、糖尿病性腎症患者も増加の一途をたどっており、透析導入原因の第1位となっています。

5. 大血管障害

 糖尿病があると全身の太い血管も障害されるので、糖尿病のない人に比べて動脈硬化が進行しやすく、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞や下肢の閉塞性動脈硬化症(下肢切断の主たる要因の一つ)などの発症や進展の危険性が極めて高く、生命予後を左右する重要な病態です。心筋梗塞を発症した糖尿病患者の5年生存率は非糖尿病者に比べて著しく低く、脳血管障害の合併は再発率が高いこと、および肺炎や尿路感染症の併発頻度を増加させることで生命予後を不良にします。

6. おわりに

 糖尿病は、初期のうちは自覚症状が乏しいのに、生命の危険もある怖い合併症が待っている恐ろしい病気です。だからこそ、初期のうちに糖尿病を発見し、血糖値をコントロールするための生活習慣改善などがきわめて重要です。



(慶應義塾大学保健管理センター 広瀬 寛  )