高血圧治療ガイドライン2019のポイントについて
(Essence of Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Managements of Hypertension 2019 (JSH2019))

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日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインが2019年4月に5年ぶりに改訂されました(JSH2019)。高血圧は全身の動脈硬化を招く生活習慣病の一つであり、心疾患や脳血管疾患の重大なリスク因子であることが知られています。高血圧治療ガイドライン2019の変更点のうち、教職員・学生の皆様に深く関わる点についてポイントを絞って紹介します。


血圧分類、降圧目標値の変更

血圧はその数値によって分類されます。高血圧と診断される基準は、JSH2019においても140/90mmHg(診察室血圧)と変わりはないものの、今まで「正常高値血圧」とみなされていた130-139/85-89mmHgは、「高値血圧」に分類されるようになり、基準となる値も130-139/80-89mmHgへと拡張期血圧の基準が5mmHg引き下げられました。同様にこれまでの「正常血圧」(120-129/80-84mmHg)が「正常高値血圧」(120-129/80mmHg未満)へ、「至適血圧」(120/80mmHg未満)が「正常血圧」(血圧値は変わらず)へと変更されています。これはさまざまな研究で、120/80mmHg未満と比較して血圧が上がるごとに脳心血管病の発症リスクが上昇することが明らかとなったためです。さらにこれまで降圧薬治療開始の目安は140/90mmHg以上の高血圧患者に限定されていましたが、JSH2019では高値血圧に対しても生活習慣指導で十分な降圧が得られなければ降圧薬開始が推奨されるようになりました。

降圧目標値についても見直しがなされ、年齢による分類では若年・中年・前期高齢者が140/90mmHg未満から130/80mmHg未満へ、後期高齢者が150/90mmHg未満から140/90mmHg未満へと大きく引き下げられました。その他、各疾患別に降圧目標値が定められていますが、一部の疾患・病態で引き下げられ、全体として血圧管理が厳格化されています。

家庭血圧の重要性

以前から高血圧の診断では診察室血圧に加えて、家庭血圧が大きな役割を果たすことが知られており、前ガイドライン(JSH2014)においても「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」と明記されていました。JSH2019ではさらに家庭血圧を指標とした降圧治療の実施が強く推奨されるようになりました。また血圧値の分類にも診察室血圧に加えて家庭血圧が追加されました。

おわりに

わが国の高血圧の有病率は依然として高く、患者数は4,300万人にのぼりますが、そのうち治療を受けている患者は57%(2,450万人)にとどまり、さらに治療を受けている患者のうち、良好な血圧コントロール(140/90mmHg未満)が得られている患者はわずか50%程度(1,200万人)と言われています。高血圧は痛みなどの自覚症状を伴うことはほとんどありませんが、知らず知らずのうちに健康を蝕んでいきます。皆様にはぜひ自身の血圧に興味をもち、家庭血圧測定を習慣にしていただくとともに、健康診断において高血圧の指摘を受けた際には保健管理センターまたは医療機関への積極的な受診をお勧めいたします。



(慶應義塾大学保健管理センター 武田彩乃)