QT延長症候群
(Long QT Syndrome)

  • Date:

QT時間とは

 健康診断で心電図に異常が見つかったという経験のある人は、意外に多いのではないでしょうか。心電図異常で見つかる疾患の一つにQT延長症候群があります。

 QTとは心電図波形の一部分を指します。心臓は、リズミカルに収縮と弛緩を繰り返して全身に血液を送っています。心臓が収縮し始める時が心電図上のQ波、弛緩した時がT波にあたります。Q波が出始めてからT波の終わりまでをQT時間といい、これが異常に長くなったものがQT延長です。QT時間は性別や年齢、ホルモンや自律神経系によっても変動しますが、QT延長があるとTorsade de pointes(トルサードポアン)や心室細動などの非常に危険な不整脈が起こりやすくなります。トルサードポアンとは心室が異常な速さで拍動する心室性不整脈の一つで、心臓から十分に血液を送り出すことができないために脳の虚血を引き起こし、失神や突然死の原因になります。心電図検査でQT延長を指摘された場合は、必ず精密検査により病的なものか否かを診断する必要があります。

QT延長症候群の分類

 QT延長症候群には、生まれながらの先天性QT延長症候群と、何らかの原因がある二次性QT延長症候群があります。先天性QT延長症候群は遺伝性不整脈の一つで、心筋の興奮をつかさどる様々なイオンチャネルの異常によって発症するものです。一方、二次性QT延長症候群の原因の多くは薬剤です。不整脈の治療薬など直接心臓に作用する薬以外にも、心臓とは一見無関係な抗生物質や向精神薬など様々な薬がQT延長を引き起こします。

先天性QT延長症候群

 先天性QT延長症候群の発生頻度は、約2,000人に1人といわれています。先天性といっても生まれてすぐに症状が出るとは限らず、発症年齢は乳児から成人まで幅広く分布します。重症例でなければ無症状で経過し、多くは学童期から思春期に失神などの症状が出現します。約75%に遺伝子変異が見つかり、遺伝子の型によって主に3つのタイプに分類され、それぞれ失神発作を起こす状況に特徴があります。1型は大半が運動中、特に水泳中に多く、2型は目覚まし時計の音が突然鳴った時や、ふいに背中を叩かれて驚いた時、また出産の後にも起こることがあります。3型は睡眠中や安静にしている時に起こります。そのため、タイプによって生活上の注意点が異なります。

QT延長症候群の診断と治療

 先天性QT延長症候群では、失神を起こした後1年以内に死亡する確率は20%以上といわれています。先天性QT延長症候群と診断され、失神を起こしたことがある場合は、運動を禁止し、交感神経遮断薬などの薬によって危険な不整脈が生じないように予防します。また、心室細動や一時的な心停止を起こしたことのある場合や薬が効きづらい時には、植え込み型除細動器を体内に入れることもあります。しかし、初回の失神発作が突然死になることもまれではなく、7~8%程度に認められます。先天性QT延長症候群による突然死をなくすためには、できるだけ早期に、可能であれば症状が出現する前に診断することが必要です。無症状の小児に心電図をとる機会がほとんどない諸外国とは異なり、日本では学校の定期健康診断の際に、心臓検診として少なくとも小学1年、中学1年、高校1年の全ての児童生徒に心電図検査を行うため、症状が出現する前にQT延長症候群を診断することが可能です。実際に日本では先天性QT延長症候群の半数以上が学校心臓検診で発見されています。学校心臓検診で診断された先天性QT延長症候群例では、失神の症状出現率も低く、突然死例も少ないことが報告されています。早期に診断し、適切な生活指導を行うことが、失神や突然死の予防につながります。



(慶應義塾大学保健管理センター 内田敬子 )