遺伝子検査
(Genetic Testing)

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【背景】

遺伝子に関する分野の技術の進歩は著しく、「遺伝子検査で体質を知りましょう」というような広告も頻繁に目にするようになりました。今回は"遺伝子検査"の意味と意義について解説します。

【遺伝子とは】

私たちの体には約60兆個の細胞があり、その細胞の中には遺伝情報の保存と伝達を司る核があります。核の中には、両親由来の46本の染色体があります。染色体はアデニン、チミン、シトシン、グアニンの4つの塩基から成るデオキシリボ核酸(DNA)の配列が羅列されたものです。その羅列すべてをゲノムと呼び、遺伝情報として意味を成している部分を遺伝子といいます。実際にはヒトのゲノム配列のうち、遺伝子は1.5%ほどで、残りは遺伝子が適切に働くための調節に関係しているといわれています。

【遺伝学的検査とは】

一般に"遺伝子検査"と呼ばれているものは、「遺伝子関連検査(染色体・遺伝子・タンパク質の変化を調べる検査の総称)」の中の「遺伝学的検査」に相当します。遺伝学的検査は、ヒトが保有する生涯変化しない遺伝学的情報についての検査で、その結果から特定の遺伝性疾患の診断や、その疾患を将来発症する、あるいは子孫に受け継ぐ可能性の推定が可能になります。これまでは、主に単一遺伝子疾患(ある特定の遺伝子の異常によっておこる疾患)の診断や、薬理遺伝学検査(薬物の効果・副作用・代謝の評価)の目的で実施されてきました。しかし、最近では疾患を抱える患者さんの家族がその疾患を発症する可能性を判定する発症前診断や、疾患感受性(易罹患性)の診断等、予防医学を前提とした検査にまで発展しています。

【医療機関で受ける遺伝学的検査】

病気の診断や治療に直接につながる遺伝学的検査は、医療機関において遺伝の分野に精通した医師を通じて行われるべきものです。事前に医師から説明を受けて、検査を受ける目的や得られる結果の意味、検査を受けた場合・受けなかった場合それぞれのメリット・デメリット、検査の時期、遺伝学的検査以外の問題解決の方法などを十分に理解して吟味することで、現在抱える問題点を整理して意思決定することができます。また得られた結果についても正しく理解するための支援を受けることができます。一部の医療機関では、必要に応じて臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーなどの専門職種と相談することができます。

【個人が受ける遺伝子検査】

一方、医療機関を介さずに直接に個人に提供される検査は、DTC遺伝子検査(direct to consumer genetic testing)と呼ばれています。疾患の中で、遺伝要因と環境要因の相互作用によって発症するものを多因子疾患と呼びますが、この中には糖尿病、認知症、アレルギー疾患などの、頻度の高い疾患の多くが含まれます。DTC検査の多くは、このような多因子疾患に対する発症リスク評価(体質診断)を目的としています。多因子疾患の遺伝要因としての側面として、発症のしやすさや病気になった時にどのくらい重くなるか、薬などの治療がどのくらいよく効くかなどには「DNA配列の個人差」が影響していると考えられています。しかし、生活習慣や生活環境も多分に影響することを考慮すると、現時点ではこのDTC検査の結果のみで医学的な判断を行うことは不可能です。むしろ体質の有無・強弱にかかわらず、健康的な生活を送ることは誰にとっても疾患が発症する可能性を低下させることにつながっていくのです。



(慶應義塾大学保健管理センター 山田 茉未子 )