アニサキス症
(Anisakis disease)

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 アニサキスという寄生虫に起因する疾患をアニサキス症と言います。本症は激痛の起こる胃腸炎として有名で、2017年にアニサキス症に罹患した芸能人が尋常でない痛みをネット上で報告したことから、日本でも大変注目されました。

【アニサキスとは】

 

 アニサキスは回虫目アニサキス科アニサキス属に分類される寄生虫の総称です。最終宿主はクジラやイルカなどの海洋哺乳類で、その消化管に寄生します。卵が最終宿主の排泄物とともに海中へ排泄され、まず、卵を食べた第一中間宿主(オキアミなどの甲殻類)の中で成長し、それを捕食した第二中間宿主(魚類やイカ)の腸管でさらに成長し、再度、最終宿主に捕食されるという循環を繰り返しています。

【アニサキス症におけるアニサキス第二中間宿主の意義】

 未成熟なアニサキスの幼虫はヒトの腸管内に寄生できないので、海水を誤って飲んで卵や第一中間宿主を口にしても、アニサキス症の心配は無用です。しかし、第二中間宿主の中で長さ 2 ~3 cm 程に成長した幼虫は、ヒトの腸管内に留まるため、成熟幼虫を宿した第二中間宿主を生や調理不十分の状態で食べた場合にアニサキス症が発症します。
 アニサキスの原因として真鯖の生食が有名ですが、真鯖以外の魚も第二中間宿主になります。東京都は市場に流通する真鯖以外の113種の魚を調べ、鰹、金目鯛、真鯛、ホッケなど47種にアニサキスの幼虫が検出されたことを報告しています。

【アニサキス症の疫学】

 通年で起こりますが、本邦では秋~冬に多くみられます。2012年の食品衛生法施行規則の改正で、アニサキス感染症の届け出が義務化されたこともあり、アニサキス症の報告が増えており、2016 年は 2007 年の20倍以上に増えています。

【アニサキスの社会学】

 従来、収穫された魚は冷凍してから運ばれることが多く、摂氏マイナス20度で24~48時間以上処理されることで、アニサキスは死滅していました。しかし、近年ではグルメブームを反映し、魚を摂氏 5度前後のチルド状態で輸送する方法、海水とともに生きたまま輸送する方法などが開発され、産地から新鮮な魚が届くようになり、また、従来、火を通して食べることが原則であった魚を寿司や刺身で食べるケースも増えています。このような変化が、アニサキス症の増加の原因と考えられます。
 アニサキスは、第二中間宿主の腸管内に生息していますが、宿主が死ぬと腸管内から筋肉内へ移動します。そのため、新鮮でない魚では、内臓だけでなくその切り身の中にもアニサキスが生息している可能性があります。新鮮な魚、鮮度の落ちた魚のいずれにおいても、アニサキス感染の危険性があります。

【アニサキス症の症状】

 胃壁にアニサキスが侵入する胃アニサキス症では、生魚を食べてから数時間して激しい胃部の痛み、嘔気、嘔吐が起こります。この胃痛は虫体が胃壁に食いついた機械的刺激によるものと従来解釈されていましたが、現在では胃粘膜上で起こる虫体に対するアレルギー反応によるものと考えられています。
 腸壁にアニサキスが侵入する腸アニサキス症では、生魚を食べてから半日~数日たって下腹部痛が起こり、時に腹膜炎症状を起こすことがあります。さらに、虫体が腸管から外に出て腹腔内や肺で見つかることも、稀にあります。
 近年、アニサキス症と全身のアレルギーの関連が注目されています。アニサキスの侵入で全身の蕁麻疹が出現したり、アナフィラキシーショックに陥り血圧の低下や呼吸困難を起こすこともあります。

【アニサキス症の診断】

 腹痛を訴える患者で、腹痛が始まる数時間前に魚の生食を行っていた場合は本症を疑います。上部消化管内視鏡検査で、虫体を内視鏡下に見つけることが確実な診断方法です。一方、腸アニサキス症では、多くの場合、虫体の同定が困難です。
 血液検査では好酸球や免疫グロブリンE(IgE)の増加が観察されます。アニサキス特異的抗体検査が確定診断に用いられることがありますが、保険適応が制限されています。

【アニサキス症の治療】

上部消化管内視鏡検査で虫体が見つかった場合、虫体を除去すると、多くの場合痛みは緩和されます。痛みは、内視鏡治療施行前でも、抗アレルギー薬やステロイド剤の投与で治まるケースもあります。胃散などの対症療法で経過を観察しているうちに虫体が死んで、胃壁から離れ、そのまま軽快することもあります。
 腸管の造影に使う造影剤(ガストログラフィン)が、アニサキスの駆虫剤になるとされています。腸アニサキス症では内視鏡が届かないので、同剤の服用が試みられる場合があります。アニサキス症が原因で腸閉塞が起きた場合は手術適応です。

【アニサキス症の予防】

 魚の生食の回避が最大の予防になりますが、日本で徹底することは難しいことから、次のような正しい知識と予防策を知っておくことが重要です。

① 真鯖以外の魚にもアニサキスが生息している。

② 調理レベルの濃度の酢、しょうゆ、わさび、塩、などの処理ではアニサキスは死滅しない。

③ 捌いていない魚は、鮮度の良いものを購入し、直ちに腸管を切除する。切除した腸管は絶対に生で食べない。

④ 切り身の魚では、アニサキスの白い2~3 cmの虫体が潜り込んでいないか自分の目で確認し、見つけたら除去する。アニサキスを発見しやすいように、切り身を薄く切って食べることも予防につながる。

⑤ アニサキスは冷凍処理によって死滅することから、一定期間冷凍することも予防につながる。



(慶應義塾大学保健管理センター 横山裕一 )