高血圧と服薬アドヒアランス、コンコーダンス医療

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医師の指示、助言に対して患者がそれを守り、治療、服薬を継続すること、その程度についてコンプライアンス(compliance)という用語が用いられてきました。しかし、最近はコンプライアンスではなく、アドヒアランス(adherence)とコンコ-ダンス(concordance)という用語が用いられることが多くなりました。この用語の変更の背景には高血圧などの慢性疾患の治療に対する医師・患者関係の考え方の変化があります。


コンプライアンスとアドヒアランス

コンプライアンスという用語は社会的には法令遵守の意味で使用されており、決められたことを守るというニュアンスがあります。医療では医師が処方した薬を患者がきちんと服薬するという意味で用いられています。すなわち、医師の指示を患者が遵守するということになりますが、Aronson はこの中には受動的で従順な患者が医師のいうことを守るというpaternalistic(家長主義)な態度が含まれているので、コンプライアンスということばを医療では使用すべきではないとしています。 近年、コンプライアンスの代わりに使用されることが多くなった用語がアドヒアランスで、服薬、生活習慣の修正などについて、患者と医師が相互に合意した治療方針に患者が自発的に従うことを意味しています。

アドヒアランスと高血圧治療

服薬アドヒアランスは血圧のコントロール、心血管系疾患の予後と関係することがわかっています。日本の高血圧患者481人に対するアンケート調査で、降圧薬1剤では14%、2剤では12%で服薬忘れがあり、3剤以上では23%で服薬忘れがあると回答しており、服薬錠剤数の増加にともないアドヒアランスが低下します。錠剤数を少なくしてアドヒアランスを改善する工夫として2つの薬を1つに合わせた合剤が使用できるようになりました。

コンコ-ダンスとは

病気について十分な知識を持った患者が疾病管理にパートナーとして参加し、医師と患者が合意した治療を共同作業として行う過程を意味します。1996年に英国の保健省と薬学会とで作られたMedicines Partnership Groupにより導入された概念です。 日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2009によると、患者と医師のコミュニケーション(高血圧のリスクと治療効果、治療計画、副作用、費用対効果、服薬忘れへの対策を十分に話す)、患者の生活習慣と合わせて生活習慣修正を行う、家庭血圧測定、患者支援システムの利用、などによりコンコーダンス医療を行うとしています。

コンコーダンス医療には病気について十分な知識を持った患者がパートナーとして必要ですが、医師と患者の高血圧への理解、認識の乖離は大きいことがわかっています。患者および医師へのアンケート調査で高血圧のリスクに関する患者の理解度は、"脳卒中、心筋梗塞などの原因になることを知っている"のは未治療高血圧患者の約30%、治療中高血圧患者の約50%でした。一方で、医師はこれらのリスクについてほぼ100%が患者に説明し、患者は十分理解していると思っていました。また、"収縮期血圧が150mmHgの時点で医療を受けるべき"と考える頻度は、治療中高血圧患者の37%、医師の80%でした。副作用について患者が話をしたがるのは日本と欧米共通ですが、医師は治療効果により興味があり、患者が副作用の話を始めると話題を変え、薬を変更することで終わらせてしまう傾向がみられています。

おわりに

高血圧の治療がうまくいかない要因の一つに、アドヒアランス不良があります。高血圧治療ガイドラインが推奨するように、病気について十分な知識を持った患者が疾病管理にパートナーとして参加し、医師と患者が合意した治療を共同作業として行うコンコーダンス医療が高血圧の治療を改善する根本的な対策となるでしょう。



(慶應義塾大学保健管理センター 齊藤 郁夫)