麻疹について

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麻疹とは?

麻疹は、麻疹ウイルスによる感染症で、「はしか」と呼ばれ、一般に春先に流行します。麻疹ウイルスは、強い感染力を有し、免疫(抗体)のない人に対しては、麻疹患者の咳、くしゃみの飛沫を直接浴びることによる「飛沫感染」だけでなく、同じ部屋にいるだけでも感染する「飛沫核(空気)感染」を起こします。麻疹に感染すると、10~12日の潜伏期を経て、発熱、咳、鼻汁、眼脂などの症状が現れ、その後全身に発疹が出現します。症状が強く発熱期間も1週間~10日と長いため、体力を消耗し入院を必要とする事も稀ではありません。また発症すると合併症をおこす頻度が高く、中でも肺炎と脳炎は2大死因とされ、1人/1000人の割合で死亡します。さらに数年~10年後に重症の脳炎(亜急性硬化性全脳炎)を1人/10万人の割合で発症することが知られています。

世界と日本における麻疹の現状は?

麻疹は、世界保健機関(WHO)が世界的規模で排除に取り組む感染症の一つです。すでにアメリカ、カナダ、韓国では国内の麻疹排除を宣言しており、我が国を含む西太平洋地域においても2012年までの排除を目標としています。我が国でも、2006年、麻疹免疫の獲得を確実にするため、麻疹予防接種をMRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)として、現行の第1期(生後12~24ヶ月未満)に加え、第2期(小学校就学前1年間)に追加する(計2回接種)制度を導入しました。しかし、2007年、我が国の10~20歳代の若年者を中心に麻疹の大流行が発生し、全国の高校・大学を中心に260校以上が休校を余儀なくされる事態になりました。慶應義塾大学では2007年4~6月で34人の麻疹発症者が報告され、5月下旬から6月初旬にかけて10日間の休校が行われました。

2007年の日本での麻疹大流行の原因とその後の予防対策は?

2007年の日本での麻疹大流行は、我が国の10~20歳代の10~20%弱において麻疹免疫が不十分であることが原因と考えられています。麻疹免疫が不十分である理由として、1)麻疹予防接種の接種歴が1回もなく、かつ麻疹に罹患したことがない人が一定数存在する、2) 麻疹予防接種を1回接種しても5%弱程度では免疫を獲得できないことがある、3) 麻疹患者数の減少で麻疹ウイルスにさらされる機会が減少したことにより、幼児期の麻疹予防接種で一度免疫を獲得しても年月を経る間に免疫力が低下する、が挙げられます。

我が国では、2007年の事態をうけ、さらに麻疹予防接種1回世代に2回目の接種機会を与えるため、2008年4月1日から5ヶ年の期限付きで、MRワクチン接種対象を第3期(中学1年生相当年齢)と第4期(高校3年生相当年齢)にも拡大する対策がとられました。慶應義塾でもこの対策を周知させるように努力し、2008年度における中学1年生、および高校3年生の麻疹予防接種2回接種率は、それぞれ91.2%、86.9%となりました。このようにわが国では、2013年3月までに高校3年生以下の人全員が計2回の麻疹予防接種を受けることを目指していますが、さらに18歳以上の成人であっても、麻疹免疫が不十分な場合には予防接種を受けることが推奨されます。

麻疹に対する社会的・国際的な注意とは?

麻疹は、感染力が強く一人でも発症すれば流行が広がりやすいこと、重篤な合併症をおこして死に至ることがあることだけでなく、麻疹対策の遅れによる麻疹患者輸出という社会的、国際的影響を引き起こす可能性からも、問題視されています。すなわち、麻疹が排除された国や排除されつつある国に滞在中麻疹を発症した場合には、現地保健当局により発症者および同行者の行動や移動の自由が厳しく制限されたり、また同行者への血液検査や免疫のない場合の予防的措置が指示されたりすることもあります。さらには国際的な批判を招くことにもつながります。したがって海外渡航(留学・赴任)にあたっては、麻疹予防接種の接種歴が2回以上でない場合、血液検査で麻疹ウイルスの抗体価が基準値未満(免疫がない)の場合には、再度、予防接種を受けることが推奨されます。



(慶應義塾大学保健管理センター 井ノ口 美香子)